きょう(5日)金沢市内の茶道具店が主宰する茶話会に参加した。テーマは「加賀紅茶の話」。石川県茶商工業協同組合理事長の織田勉氏の講話だった。加賀藩と茶葉の関わりが面白かった。最近売り出し中の加賀紅茶「輝(かがやき)」、能登紅茶「煌(きらめき)」の仕掛け人でもある。まずは加賀における茶葉の歴史を、織田氏の話のメモから。
加賀藩の3代藩主・利常が小松に隠居したことから始まる。茶問屋「長保屋(ちょうぼや)」の長谷部理右衛門が利常に願い出で、藩内で茶葉をつくることを進言した。それまでは、宇治や近江の国からの購入だった。それを藩内で生産してはどうかと長保屋が提案した。利常は進言に応え、茶種を山城や近江から購入し、小松付近で栽培が始まる。そして、小松の安宅湊からは北前船で「茶、絹、畳表」などが移出さるようになった。元禄4年(1691)の記録によると、加賀藩五代の綱紀が、徳川五代綱吉に献上したとの記録もある。
当時、お茶は高級品だった。「お茶壺道中」という言葉があった。幕府が将軍御用の宇治茶を茶壺に入れて江戸まで運ぶ行事を茶壺道中と言った。この道中は、京の五摂家などに準じる権威の高いもので、茶壺を積んだ行列が通行する際は、大名といえども駕籠(かご)を降りなければならない、というルールがあった。街道沿いの村々には街道の掃除が命じられ、街道沿いの田畑の耕作が禁じられたほどだったという。「ズイズイ ズッコロバシ ごまみそズイ 茶壺におわれて トッピンシャン ぬけたら ドンドコショ」という童謡がある。このわらべうたは、田植えなどの忙しい時期に余分な作業を強いられるお百姓たちの風刺だった。
小松を中心として、能美・江沼西郡に増産体制が敷かれ、明和5年(1768)には地場生産1万6800斤、移入は近江茶2万3100斤、安永6年(1777)には地場生産2万7700斤、近江茶1万6100と逆転する。文化年間(1810頃)には25万700斤と地場生産は10倍に膨らんだ。25万斤は約375トンに相当する。ただし、当時でも上質なものは宇治から購入だった。
安政6年(1859)に横浜港が開港して、その輸出品の先陣を飾ったのは日本の緑茶だった。加賀では茶の増産に拍車がかかった。小松の長保屋は能美郡内から生茶を集めて宇治風の茶を製造して、安宅港から敦賀に陸揚げして、兵庫に輸送、そこから海外へ輸出した。明治の初めごろには金沢の寺町台にも茶園が広がり50万斤と全盛時代を迎えた。ところが魔がさした。当時、好調な輸出に調子に乗った国内の茶商人は輸出先のアメリカに古茶を混入したり、ヤナギの葉を混入した業者もあった。加賀の生産者の中にもこうした悪質な製法に習った者もいた。こうした乾燥不良品やニセ茶に対してアメリカは明治16年(1883)年、「贋製茶輸入禁止条例」を国会で可決した。日本茶は一気に信頼を失った。
こうした風潮を戒めようと、明治16年(1883)4月、金沢市の尾山神社では近藤一歩らが献茶式を開いた。加賀茶の庇護者であった藩主、前田家に対する感謝と粗悪茶の改善を誓うものだった。太平洋戦争が始まると、食糧増産が叫ばれ、趣向品のお茶からコメ作りにまい進することになり、茶の生産量は激減し、石川県内でも茶畠は徐々に消えていった。戦後は、加賀市打越地区などではその加賀茶の伝統は守られた。
織田氏は、平成19年から打越製茶農業協同組合と県茶業商工業協同組合に仕掛けて、加賀茶の伝統を守ってきた打越地区で「加賀の紅茶」の生産を始めた。平成24年からはこのノウハウを「能登の紅茶」として商品化すべく、七尾市能登島町で紅茶の栽培を始めた。7アール1000本の植栽から始め、昨年は50アール4000本を植えた。品種はヤブキタ、オクヒカリだ。
緑茶と紅茶の違い。緑茶は製造の第一工程で加熱により茶葉中の酸化酵素の活性を止めるのが特徴で、発酵が行われないため、茶葉の緑色が保存され緑茶と呼ばれる。紅茶は、発酵茶とも呼ばれ、茶葉を揉む前に葉をしおれさせ後に湿度の高い部屋で充分に発酵させるため茶葉タンニンの酸化で黒褐色となり、紅茶となる。北陸新幹線の名称にあやかった加賀紅茶「輝(かがやき)」、そして能登紅茶「煌(きらめき)」。加賀の茶の復活なるか。
⇒5日(日)午後・金沢の天気 あめ
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