自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★記者会見、駆け引きの現場を読む

2020年07月30日 | ⇒メディア時評

   むしろ問われるのは日本のメディアの姿勢ではないだろうか。韓国・平昌市の民間施設の植物園に、少女銅像に安倍総理が土下座したような銅像があることが報道されている。今月28日午前の記者会見で菅官房長官はこの銅像に対し、政府として事実確認していないとしたうえで、「そのようなことは国際儀礼上、許されない。仮に、報道が事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と強い不快感を示した(28日付・NHKニュースWeb版)。

   ニュースで取り上げられたこの銅像に関しては、気分のよいものではない。むしろ「韓国人のいつもの発想」とメディアが「嫌韓」を煽っているとの印象だ。さらに、なぜこれをニュースにするのか必然性が理解できない。民間施設の中に、どのようなモニュメントがあろうとそれをとがめることはできないだろう。もし、その銅像が公的な機関から設置を条件に譲られたものであるならば、もちろん話は別だが。民間施設の運営者が私費を投じて2016年設置したもののようだ。

   官房長官から「国際儀礼上、許されない」とのコメントを引き出した新聞各社は写真付きで記事にしている=写真=。そのような民間施設でのモニュメントのことを、なぜメディアはわざわざ官房長官の記者会見で意見を求めるのか、それがメディアの在り方なのかとむしろ考えてしまう。会見の席上ではおそらく、布マスクの再配布など優先すべき質問があっただろう。仮に、このモニュメントが国際問題になるほどのニュース価値があるとすれば、当事者である安倍総理に直接、コメント求めるべきではないのか。

   この日の安倍総理の動きを新聞の政治面でチェックすると午前中は「来客なく、東京・富ケ谷の私邸で過ごす」となっている。ここでピンときた。本来ならば、首相官邸で安倍総理への「ぶらさがり会見」で直接聞くべきだが、さすがに記者も気が引けた。そこで、午前中に総理が官邸で不在であることを奇貨として、官房長官の午前中の記者会見で政府見解として引き出した、のではないだろうか。俗な言葉で言えば「せこい」。

   その日の午後の記者会見で官房長官は記者団から、モニュメントの設置は表現の自由の範囲内か見解を問われたのに対し「表現の自由は確かに重要であることは申し上げるまでもないが、そのうえで申し上げれば、仮に像の設置が事実であれば、国際儀礼上、許されないというのが政府の立場だ。このようなわが国の立場については、韓国政府に適切に説明してきている」と述べた(28日付・NHKニュースWeb版)。

   この質問をした記者の質問内容の詳細を知りたいと思い、官邸公式ホームページをチェックしたが、28日の官房長官の会見(動画)はアップされていない(午前7時30分現在)。韓国の個人が設置したモニュメントについて、なぜ繰り返し官房長官の発言を求めるのだろうか。アップされる動画を見れば、その質問をした記者の意図が読める。もし官房長官からその個人を中傷するような発言を引き出せば、これは表現の自由問題という別のニュースとして展開できる。その意図が記者にあったのかどうか。それにしても、ベテラン官房長官はうまくかわしている。記者会見で質問を「する側」と「される側」の駆け引きの現場ではある。

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