自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆傾きつつも耐える

2007年03月31日 | ⇒トピック往来
 倒れそうで倒れない絶妙のバランスというものがある。能登半島地震の後、3月31日に石川県珠洲(すず)市に入った。地元では古刹として知られる臨済宗のお寺「琴江院(きんこういん)」を拝観させていただいた。背戸には池を配した庭園もあり古刹の風情を感じさせる。

 地震では灯ろうが多数倒れる被害があり、「もしや」と思い、墓地に入った。案の定、3基に1つの割合で倒れる、ずれる、割れるなどの状態だった。ふと見ると、傾きつつも絶妙のバランスで難を免れた墓石があった。高さ40㌢ほどの円筒状である。手前の枯れた竹の切り株が垂直に立っているのでそれと比べると傾き加減が分かる。イタリアのピサの斜塔は傾斜角5.5度。傾きはだいたい同じかと思われるが、この墓石は円筒とは言え、バットのように上部に膨らみがついているので重心はピサの斜塔より上になる。つまり、その分鋭く傾いているということになる。

 じつはもう一つ。絶妙なバランスを保つ石積み(ケルン)が能登にある。輪島市の沖合い49㌔に浮かぶ舳倉(へぐら)島で、漁に出た漁船の目標にしようと、あるいは岩礁が多いため沖に沈んだ難破船の供養のためにと住民が石を積み上げつくった築山だ。この写真を撮影したのは14年ほど前。ご覧の通り傾きつつも日本海の風雨に耐えている造形芸術ではある。

 震災、風雨にさらされながらもバランスを保ち続けるこれらの石の造形を見て感じたことは一つ。人も同じではないか、と。順風満帆の人生というのはそうない。人間社会のストレスあるいは病魔にさいなまれながらもなんとかバンラスをとって耐えて立っている。倒れそうになりながらも倒れず自らをなんとか支えている。周囲の人をハラハラさせながらも耐えて立ち続ける。そんな情感と重ね合わせてみた。

 一つだけ誤解を避けるために言い添える。これは今回の被災者に向けたメッセージなどというものではない。被災は情感で語るものではない。

⇒31日(土)夜・金沢の天気   あめ

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