自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★日本海のイカ漁場、厄介な現実

2018年06月02日 | ⇒ニュース走査

   北朝鮮の動きがいよいよ「活発」になってきた。東シナ海で北のタンカーが別の船に横づけし、ホースで石油などを移し替えする「瀬取り」を行っているのを先月24日、海上自衛隊の護衛艦が確認。政府は国連安保理の北朝鮮制裁委に通報した。そして、日本海では日本のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)で北のイカ漁船が数10隻確認され、退去に応じなかった漁船には海上保安庁の巡視船が放水して退去させている=写真=。

   スルメイカ漁が今月1日に解禁になり、3日には多くの日本漁船が大和堆でのイカ釣り漁を開始する。EEZ内での違法操業はもちろん問題なのだが、もっと厄介なことがある。日本漁船は釣り漁であるのに対し、北のイカ漁船は網漁だ。夜間に日本漁船が集魚灯をつけると、集魚灯の設備を持たない北の漁船が多数近寄ってきて網漁を行う。獲物を横取りするだけでなく、網が日本漁船のスクリューに絡むと事故になる危険性にさらされる。

   また、夜間では北の木造漁船はレーダーでも目視でも確認しにくいため、衝突の可能性が出てくる。衝突した場合、水難救助法によって北の乗組員を救助しなければならない。そうなればイカ漁どころではなくなる。だから、「厄介な危険物」にはあえて近寄らない。昨年、多くの日本漁船が好漁場である大和堆を避けるという現象が起きたのはこのためだ。
 
   漁業関係者に苛立ちや不安が積もっている。昨年7月に開かれた「大和堆漁場・違法操業に関する緊急集会」(国会内の会議室)では国会議員や漁業関係者の発言は厳しいものがあった。当時のメディアの報道によると、質問が集中したのは海上保安庁に対してだった。海上保安庁も巡視船で退去警告や放水で違法操業に対応していたが、イタチごっこの状態だった。漁業関係者からは「退去警告や放水では逆に相手からなめられる(疎んじられる)」と声が上がった。違法操業の北の漁船に対して、漁船の立ち入り調査をする臨検、あるいは船長ら乗組員の拿捕といった強い排除行動を実施しないと取り締まりの効果が上がらない、と訴えた。

    言うまでもないが、領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していないし、日本と漁業協定も結んでいない。そのような北の漁船に排除行動を仕掛けると、北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化してくる可能性がある。取り締まる側としてはそこが悩ましいところなのだろう。

    きょう2日付のWebニュースによると、アメリカのトランプ大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との初めての会談をいったん中止すると通告していたが、金氏からの親書を受け取ったことで、予定通り今月12日にシンガポールで会談すると明言した。こうした外交の裏側で国連安保理決議に反する「瀬取り」、そして日本のEEZ内での違法操業がまかり通る。シビアな現実がそこにある。(※写真は海上保安庁が公表した映像、NHK画面より)

⇒2日(土)朝・金沢の天気     はれ

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☆「司法取引」小物に餌与え、大物を釣る

2018年06月01日 | ⇒ニュース走査

   世間を騒がせている森友学園への国有地売却や決裁文書改ざんをめぐる問題で、大阪地検特捜部はきのう(31日)、虚偽公文書作成などの疑いで告発された佐川前国税庁長官ら関係者全員を不起訴とした。きょう1日付の朝刊を読むと、各紙の論調は「まだ幕引きは許されぬ」(朝日新聞)といった感じで、私自身も何だか釈然としない=写真=。しかし、どこかでケジメをつけないといつまでも「モリカケ問題」が国会の論戦になっているのはいかがなものか、とも。

   そんな思いで紙面に目を通していると、アメリカのニュースなどでよく出てくる「司法取引」がきょうから日本でも始まるとの記事に目が止まった。読むと、アメリカの司法取引とは意味合いがかなり異なるようだ。日本の場合、司法取引でタ-ゲットとする犯罪は、組織犯罪や企業犯罪、汚職事件など。より具体的には、振り込め詐欺など組織犯罪、また贈収賄・詐欺・横領などの事件、さらに独占禁止法・金融商品取引法などの経済犯罪、薬物銃器犯罪などとしている。一方で殺人や性犯罪などは対象外。つまり、特定の犯罪に限定しているのだ。

   アメリカの場合は、自分の罪を正直に供述して刑の減免を受ける、いわゆる「有罪答弁型」だ。日本の場合は、たとえば容疑者・被告が共犯者など他人の犯罪の捜査に協力すれば検察が見返りとして起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする法制度。組織犯罪や経済犯罪で逮捕された部下が指示した上司(ボス)のことを供述したり、証拠を提出するなど検察側に協力をすれば、不起訴や軽い罪での起訴、軽い求刑など有利になる。いわば「捜査協力型」、言葉は悪いが、「小物に餌を与え、大物を釣る」のたとえだ。

   ただ、単に捜査に協力するのではない。司法取引に関して、検察側と容疑者・被告の間で合意をするには、その過程で弁護人の立ち合いが義務化されている。確かに、司法取引として検察側が末端の者の犯罪に刑の減免を約束して、組織の上層部の犯罪について供述を求めることで、事件解明のスピードが早まることになるだろう。ただ、素朴な懸念も生じる。自らの処分を有利にするために虚偽の供述をする、あるいは伝聞の話を供述して、無関係の人物まで事件に巻き込むといったことにはなりはしないだろうか。いわば冤罪だ。

   もう一つ。他人のことを供述して、自らの責任を減免することは国民感情としていかがなものだろうか。もちろん、司法取引には、個人の責任よりも巨悪を懲らしめるという社会的責任が優るという大義があるだろう。検察側でその思いが逸(はや)ると、大阪地検特捜部の主任検事が郵便不正で押収したフロッピーディスクのデータを改ざんした事件(2010年9月)にもなりかねない。

        今回のブログは大阪地検特捜部に始まり、大阪地検特捜部で終える。もちろん、冒頭の不起訴処分で検察側と財務側で「司法取引」はなかったと信じたい。

⇒1日(金)朝・金沢の天気    くもり

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