黒木亮「排出権商人」講談社 2008年作品
CO2排出権の売買をビジネスにしようとする世界の物語。
語り口は幸田真音、高杉良、などのビジネス小説とほぼ同じである。中国、マレーシアなどの排出量削減プロジェクトを手がけると同時に、削減排出権を売りさばくビジネス。
国連の外郭機関での認証が必要がミソで、そこで認証を得るためのコンサルタントが存在する。ここらあたりはノンフィクションの様相で、登場人物とのやり取りなどは、フィクションだろうが、中国、マレーシアの国柄の違いなどはよく描けている。
そこに、株の空売り集団が絡み、一企業の存在をかけて、個人と組織が動いてゆくと言う小説だ。
やたらに横文字(例えばCDM、DOE、UNFCCCなど)略語が出てくるのには閉口するが、理事会での各国代表のやり取り、中国企業との交渉経緯などは、いかにも、という情景で、よく描けていると思う。
京都会議の決定は、日本に排出権を買わそうとする仕組み(アメリカ、中国はいち早く脱出した)ではないか、という投げかけや、ISOなどのように、この制度で儲けようとする欧州勢の企みではないかと言う指摘も面白い。
こうして見ると日本はずいぶんお人好しの国に思えてくる。スキーの複合競技で日本勢が好成績を上げ続けたら、ルールを変えて、阻止をしてきたヨーロッパ勢のしたたかさを思い出す。
地球温暖化自体が地球の周期的循環で、あと数年で今度は寒冷化の周期に入るという学説もあるそうだ。単純な企業小説の域を超えて、国際社会の裏面をケレン味なく捉えた作品といえる。