山本兼一著「利休にたずねよ」PHP社刊 2008年11月初版発行
第140回直木賞受賞作。千利休の半生を描いた作品。切腹当日から徐々に遡って記載し、関連の人々、秀吉、細川忠興、古田織部など周りの人々の目を借りて、利休の本質に迫る。
茶道など齧ったこともない私だが一連の茶事(道具=掛け軸、花入れ、茶碗、茶筅、など。食事、茶室のあつらえ)などの世界に引き込まれる。世俗の権力の頂点の秀吉と利休の確執の描き具合が素晴らしい。単純な聖と俗ではなく、お互いの意地の張り合い、大事なもののぶつけ合いなどが上手く書かれている。なぜ秀吉が利休に切腹を命じたか、得心がいく。
利休の目指したものは、単なる田舎びた侘び寂びの世界ではなく、そこに色艶、命の輝きを内蔵し虚飾を排したたものである。またそのセンスはモノ選びに留まらず、一連の茶の湯の所作に表現されている。動作一つ一つに意味があり、利休の動きには無駄がないのだろう。
茶の湯の意味や、この時代の存在意義がよく分かり、単にお茶を入れることがいかに相手の心に響くか、もてなしの気持ちを自然に表すことの大事さ、滝川クリステルが言った「お・も・て・な・し」の深い意味を垣間見た。
美の追究者でありながら、骨太な哲学を持ち、青年の頃出会った高麗の美少女に対する思いを生涯内面に持ち、現世の妻の直感に悟られつつも、貫き通すという少年のような感性を持つ。ここらあたりは作者の創作であろうが、命の輝きを持つ侘び寂びを表現するには格好の題材である。
これは内容的にも、形式的にも傑作といえる小説だろう。久々に充実した小説に出会えた。