竜田一人「いちえふ」福島第一原子力発電所労働記 講談社刊
畏友から拝借した数々の本の中で異色の一冊である。しかも漫画だ。よくある告発本ではない。
福島原発で働く作業員の等身大のルポである。
実際の作業をする6次下請けの現場に潜り込み、単純作業につく。それなりの事前教育、それなりの防御服着脱、それなりのAPD(個人用線量計)着脱など一応「それなりに」形は整えられている。作業現場には使命感、悲壮感、責任感などは殆ど無く、与えられた任務を生活のために淡々とこなす有り様が描かれている。
それだけにこれが復旧現場だ、という感が色濃くにじむ。震災後4年経った今日もなおこんな作業が続いているのかと思うにつけ、原発はまだ人類の制御の外にあるものだということを感じる。
太宰治「人間失格」新潮文庫刊
年末自宅の掃除をしていた時に息子の本を整理していた時に出てきたもの。
この本は題名は知っていたが、実際には読んだことはなかったので、脇へ避けて置いて東京への行き帰りの際読んでみた。
これは太宰の自画像ともいうべき自伝的小説だと言われているが、確かに才能あふれる描写力が随所に迸り、自己嫌悪、小心、自尊心、の複合体である自分を描く。大正、昭和の小説家らしく(作品の中では漫画家とということになっているが)才気溢れ、女性にもて、酒に溺れる日々を送る。「いちえふ」の作業現場であまり深く考えること無しに、体を張って生きる毎日とは対照的に、酒と女に明け暮れるデカダンな毎日を観念的に送る太宰は、考えすぎて少しおかしくなっているようにみえる。
この本をよんで初めて太宰と触れ合えたような気分になった。