佐藤美由紀「世界で最も貧しい大統領ホセ・ムヒカの言葉」株式会社双葉社 2015年刊
先日民放の招きで来日したウルグアイの大統領、ホセ・ムヒカの歴史的演説「最も衝撃的なスピーチ」から始まるこの本は興味深い。
およそ一国のリーダーに相応しいのは、国民を勇気づける哲学を持っていること、それを伝えるコミュニケーション能力、裏付けとなる行動力、があること、などであろう。
後半の二つの要件については、彼はキャッチフレーズにあるとおり、また革命運動の戦士であった経歴が示すように抜群である。
しかし彼の真骨頂はパフォーマンスでなく、自身の経験から生み出された生き方にある。強がりや自慢などの無理がない。彼の住居は3つの部屋の平屋、車は中古のワーゲン、大統領や国会議員の報酬の90%は寄付しているという徹底ぶりである。
「私は貧乏ではない。質素なだけなのです」「物であふれることが自由なのでなく、時間にあふれることが自由なのです」「人間の最も大事なものが、『生きる時間』だとしたら、この消費主義社会は、その最も大事なものを奪っているのですよ」
彼は資本主義を否定しているのではなく、このシステムに支配されている社会に警鐘を鳴らしているのだ。進歩、発展のエンジンである利益追求に支配されている人間社会を批判している。
主張は単純明快。「民主主義では指導者は多数派の立場に立つべきである。多数派=貧困層のためにベーコンを少し厚切りにすることに力を注ぐことこそ政治の役割である」
幸せを追求するはずが、利益を追求することにすり替わって幸せを犠牲にしている現状を鋭く指摘している。彼の前では既存の政治家のなんと色褪せて見えることか。こうした哲学を訴え、人間社会を変えてゆこうと言う壮大な変化に、チャレンジしている姿に皆共感を覚えるのではないだろうか。
胆力、努力不足の私などが同じようなことを言っても相手にされないが、経歴から言っても実績から言っても、この人の言葉は行動に裏打ちされているので深みが違う。世界中の人がムヒカの哲学を実践したら地球の危機は救えるのかもしれない。
日本の現状の政治を見直すうえでも一読に値する。