浅田次郎「黒書院の六兵衛」上・下 文春文庫 2013年刊
現在私の読書源は、畏友からの貸出本、病院のボランティア貸出図書、書評での注目本を購入、それに加えて入院末期に義兄が差し入れてくれた図書、に大別される。この本は義兄の差し入れ分であるが、フォーサイスを始めとして外国人作家の著書が多い中に混じって浅田次郎の著書が入っていた。
久しぶりの浅田文学である。「オーマイガアッ」以来その筆の冴えを楽しんできた。今回もストーリーは単純なのだがその描き方が真に面白く最後まで読ませる。
ときは幕末、年号も間もなく明治に変わろうかというほど押し迫っている。勝安房守と西郷吉之助の談判成立直後、江戸城の明け渡しの受け取り先陣を命ぜられた、尾張徳川家の徒頭が主人公である。
ただお城の明け渡しに立ち会うだけでなく、そこに居座る一人の旗本を巡る顛末がテーマである。彼を立ち退かせようと、幕府留守居役、徒頭、旗本組頭、或いはその上司、あげくは勝安房守、西郷まで繰り出すが、件の旗本は頑として動かず、次第に座す場所を将軍家の御座所の方へと移動する。いろいろな人が説得するが彼は座するのを止めず、怪しげな噂も立つ。曰く将軍そのものだ、或いは朝廷の回し者だ、また外国公使が放ったスパイだなどいろいろ言われる。
西郷が力ずくで排除をしてはならぬと釘をさしているので手荒なことはできず、とうとう天頂様の御成の日を迎えるまで続いた。これ以上は種明かしをしないが、フィクションとわかっていてもなにか楽しい。一気に読んでしまった。著者は当代随一の作家と言ってよいだろう。
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