浅田次郎「壬生義士伝」上下 文春文庫 2002年刊
傑作である。というかこの作品は大傑作と言っていいと思う。南部藩の下士出身の徒士が壬生浪と呼ばれた新選組に入隊。守銭奴と呼ばれても妻子に送金を続け、飢えたものには握り飯を施す男の生き方を描く。
この男、文武両道に長け、藩校では助教、道場では師範代を務める。その生き方は万人にも愛されるが、葉隠に代表される武士の生き方とは少し違う。武士道とは、あるいは「義」とは国のため、道のために死するとは違い、家族のため、民百姓のため生きることだという。
義は貫くが、徹頭徹尾・故郷、家族を第一に生きるこの男、家族は見事な生き方をする。「武士道とは死ぬことと見つけたり」というような思考停止に陥ることなく、義を追求した作者の表現力に拍手を贈りたい。
新選組の諸構成者の視点からこの男の所業を解き明かしてゆく手法も興味深く、新選組内部の事情も説得力がある。近藤勇、土方歳三、沖田総司などの性格描写もそうだと思わせる説得力がある。
ストーリー構成も相まって、是非お勧めしたい一冊である。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます