藤沢周平 「蝉しぐれ」 昭和63年文藝春秋社刊
映画化もされた時代小説、と言うより恋愛小説に近かった。
いま、中毒気味になっている、佐伯泰英「居眠り磐音シリーズ」にちょっと風を
入れるべく、手に取った。
と言ってもやはり時代剣豪小説だろう、くらいの軽い気持ちであったが、独特の藤沢作品の世界が広がっていた。
舞台は藤沢作品に登場するいつもの海坂藩、下級武士の清廉な生き方と、淡く、それでいて確かな恋心が、描かれる。佐伯作品と同じく、武道に優れた貧しい後継ぎが活躍する。同じような主題であるが、居眠り磐音シリーズより、少し格調を感じるのは何故だろうか。
いたるところに出てくる自然描写が丁寧に、また読む人の気持ちに沿うように、
展開している。描かれた情景の空気に浸っていると、気持ちが主人公に同化して
ゆくようである。僅かな違いだが、この辺りがエンターテイメントに徹している
佐伯作品との違いだろうか。
例えて言えば、きちんと糊の効いたワイシャツと、スポーツシャツくらいの違いだ。こういう読書の寄り道も楽しい。
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