事実は小説より奇なり

 言い古され今どき流行りもしない、そんな言葉しか思い浮かばないモンツァのレースであった。もし、ミヒャエルが優勝できなかったとしたら、自分の後を継ぐ男が隣なりにいなかったら、あれ程までに淡々と、自らの身の処し方をまるで他の誰かのことでも話すように伝えることはできなかったことだろ。

 モンツァはまさにミヒャエルの引退表明のために仕組まれたレースであった。1000分の2秒差のライッコネンのポールポジションも、アロンソの10番手への降格も、3番手までのリカバリィも、そして久しく見ていなかったルノーエンジンのブローアップも。ライコネンやアロンソの更に次の世代となるクビサの表彰台も。

 ミヒャエルは、セナ、プロスト、マンセル、ピケといった80年代から90年代初頭にかけてのヒーローたちと共に走った最後の一人である。勿論ミヒャエルはその誰よりも大きな成功を収めたドライバーであり、おそらくは当分の間、いや、未来永劫破られないであろう金字塔を打ち立てた。そのミヒャエルの姿を来シーズンの開幕戦で見ることはできないのだ。

 ひとつの時代が終わった。しかしミヒャエル、安心するがいい。あなたの後を追う素晴らしいドライバーたちがいる。あなたが私たちに伝えてくれたのと同じ感動を、彼らが間違いなく与えてくれることだろう。二度とないであろう8度栄冠に輝いたドライバー、ミヒャエル・シーマッハよ、あと3つ、君の渾身のレースを見せてくれ。
 
今日の1枚は、頭を垂れる稲穂。刈り取りまであと幾日か。
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