改正の上に改正を重ねてきたために難しく複雑になっている公的年金を整理し、国民に分かりやすい制度に作り替えていく。これが、基礎(国民)年金を廃止して、新たに「所得比例+最低保障」年金を創設する狙いだ。
所得比例制度は所得に応じて払った保険料と年金額の関係が明確で分かりやすい仕組みだ。最低保障年金は現役時代に病気や障害、そして会社の倒産、解雇などによって生涯の所得が低くなった人たちの暮らしを支えるものだ。
◇課題は所得捕捉
保険方式で運用される所得比例年金と、暮らしを支える福祉制度の要素がある最低保障制度をはっきりと区分けしたのが今回の提案の特徴だ。
図表のように最低保障の年金の給付額はゆるやかな右肩上がりにしてある。高い保険料を払う人には年金額を上げることで、保険料を納付する意欲が喪失しないようにするためだ。最低保障年金は現役時代の平均年収が600万円以上だと支給されない。
高齢世代に最低保障年金を導入することで、生活保護制度は現役世代向けの福祉施策として位置づける。地域によって物価や住居費などが違うため、最低保障も生活保護制度と同様に地域によって給付額を変える必要がある。
所得比例年金制度には、正社員、非正規社員、自営業者らがいっしょに加入する。所得に応じて保険料を払うが、非正規社員の保険料も労使折半とする。ここが、雇用形態によって年金に格差がつく現行制度とは大きく違う点だ。この点は、企業にもぜひ理解をしてもらいたい。
本社提案の新制度にも課題はある。最低保障年金を公平に運用するには、自営業者らの所得把握が必要になる。国民年金は当初から所得比例制度を目指した。しかし、自営業者の所得捕捉ができないために改革ができなかった。
国民年金が所得比例型になれば、事実上は所得比例制度の一元化に近づく。給料制でない自営業者の収入をしっかりとつかむためには納税者番号制の導入を急ぐことだ。
所得をごまかして保険料を低く抑え最低保障年金を手にする人に対しては年金を支給しないなど厳しい罰則を設けるべきだ。長い間、所得把握の問題がネックとなってきたが、難しいことを理由に改革を遅らせてはならない。
保険料は19%(労使折半)だが、04年改革で政府が決めた最終保険料率である18・3%と大きな差はない。問題は一気に上げるか、段階的に行うかだ。慶応大学の駒村康平教授ら研究者グループの試算では、団塊世代が現役のうちに一気に上げることができれば、若い世代への負担が減る。保険料は暮らしに大きな影響を及ぼすだけに、国民の声を十分に聴いて判断をしていくべきだ。
新制度にどう移行させるかも大きな課題だ。すでに年金を受けている人は、現行制度のままとするのがいいのだろうが、移行に長い期間がかかる。
新制度が発足以降、65歳になった人から適用するが、国民年金のみの加入者や厚生・国民年金の両方に加入していた人の場合、加入期間などによって給付を調整する。分かりやすく、不公平感が少ない仕組みにして移行をできるだけスムーズに行うことが必要だ。
◇医療、介護も視野に
「老後に年金がもらえなくなるのでは」。国民の間には年金制度への不信が相当に強い。しかし、政治の対応は遅れている。政党から年金改革案が出されているが、議論は中途半端なままになっている。与野党は年金改革の議論を再開し、具体的な改革案について決断をすべきだ。
「所得比例+最低保障」年金を提案したのは、政治が国民の年金不信にもっと敏感に反応し、改革論議を深めるきっかけとなることを期待してのことだ。
年金の改革には消費税の引き上げ問題が避けて通れない。本社案の試算では最低保障年金の財源を消費税でまかなうとすると、約1・5%アップが追加的に必要となるが、基礎年金を全額税方式にするとなると相当な引き上げとなる。
しかし、財源難に直面しているのは年金制度だけではない。医療や介護保険制度の方がもっと苦しく、深刻な問題を抱えている。消費税の議論をする場合には、社会保障の一体改革を進める中で、安心の社会保障制度にするための議論を深めていくべきだ。
所得比例制度は所得に応じて払った保険料と年金額の関係が明確で分かりやすい仕組みだ。最低保障年金は現役時代に病気や障害、そして会社の倒産、解雇などによって生涯の所得が低くなった人たちの暮らしを支えるものだ。
◇課題は所得捕捉
保険方式で運用される所得比例年金と、暮らしを支える福祉制度の要素がある最低保障制度をはっきりと区分けしたのが今回の提案の特徴だ。
図表のように最低保障の年金の給付額はゆるやかな右肩上がりにしてある。高い保険料を払う人には年金額を上げることで、保険料を納付する意欲が喪失しないようにするためだ。最低保障年金は現役時代の平均年収が600万円以上だと支給されない。
高齢世代に最低保障年金を導入することで、生活保護制度は現役世代向けの福祉施策として位置づける。地域によって物価や住居費などが違うため、最低保障も生活保護制度と同様に地域によって給付額を変える必要がある。
所得比例年金制度には、正社員、非正規社員、自営業者らがいっしょに加入する。所得に応じて保険料を払うが、非正規社員の保険料も労使折半とする。ここが、雇用形態によって年金に格差がつく現行制度とは大きく違う点だ。この点は、企業にもぜひ理解をしてもらいたい。
本社提案の新制度にも課題はある。最低保障年金を公平に運用するには、自営業者らの所得把握が必要になる。国民年金は当初から所得比例制度を目指した。しかし、自営業者の所得捕捉ができないために改革ができなかった。
国民年金が所得比例型になれば、事実上は所得比例制度の一元化に近づく。給料制でない自営業者の収入をしっかりとつかむためには納税者番号制の導入を急ぐことだ。
所得をごまかして保険料を低く抑え最低保障年金を手にする人に対しては年金を支給しないなど厳しい罰則を設けるべきだ。長い間、所得把握の問題がネックとなってきたが、難しいことを理由に改革を遅らせてはならない。
保険料は19%(労使折半)だが、04年改革で政府が決めた最終保険料率である18・3%と大きな差はない。問題は一気に上げるか、段階的に行うかだ。慶応大学の駒村康平教授ら研究者グループの試算では、団塊世代が現役のうちに一気に上げることができれば、若い世代への負担が減る。保険料は暮らしに大きな影響を及ぼすだけに、国民の声を十分に聴いて判断をしていくべきだ。
新制度にどう移行させるかも大きな課題だ。すでに年金を受けている人は、現行制度のままとするのがいいのだろうが、移行に長い期間がかかる。
新制度が発足以降、65歳になった人から適用するが、国民年金のみの加入者や厚生・国民年金の両方に加入していた人の場合、加入期間などによって給付を調整する。分かりやすく、不公平感が少ない仕組みにして移行をできるだけスムーズに行うことが必要だ。
◇医療、介護も視野に
「老後に年金がもらえなくなるのでは」。国民の間には年金制度への不信が相当に強い。しかし、政治の対応は遅れている。政党から年金改革案が出されているが、議論は中途半端なままになっている。与野党は年金改革の議論を再開し、具体的な改革案について決断をすべきだ。
「所得比例+最低保障」年金を提案したのは、政治が国民の年金不信にもっと敏感に反応し、改革論議を深めるきっかけとなることを期待してのことだ。
年金の改革には消費税の引き上げ問題が避けて通れない。本社案の試算では最低保障年金の財源を消費税でまかなうとすると、約1・5%アップが追加的に必要となるが、基礎年金を全額税方式にするとなると相当な引き上げとなる。
しかし、財源難に直面しているのは年金制度だけではない。医療や介護保険制度の方がもっと苦しく、深刻な問題を抱えている。消費税の議論をする場合には、社会保障の一体改革を進める中で、安心の社会保障制度にするための議論を深めていくべきだ。