年金税方式:政府試算を読む/下 現制度「未納、影響少ない」?
空洞化が進み、持続性が危ぶまれる年金財政。だが、政府の社会保障国民会議は「現行制度で国民年金の保険料納付率が変わっても、基礎年金財政への影響は少ない」との試算を出した。その通りなら、未納問題が発生しないことがメリットの税方式(基礎年金財源をすべて消費税で賄う)は、導入の大きな根拠を失うことになる。額面通りに受け取っていいのだろうか。【中西拓司】
◇給付減で均衡保つが、「世代間の助け合い」崩壊
国民会議は、現在の保険方式の下で将来の国民年金保険料(今年度1万4410円)の納付率を90%、80%、65%の三つに分け、年金財政への影響を試算した。その結果、基礎年金給付費(09年度見込み19兆円)は50年度で、納付率の低下に応じて低くなり、納付率90%で57兆円▽80%で56兆円▽65%で55兆円--となった。
これは、未納が増えれば、短期的には保険料収入が減るが、未納期間のある人はその分、将来の年金給付も少なくなるためだ。試算の通りなら、長期的には年金財政の均衡は崩れず、影響は限定的ということになる。
影響が小さいとするもう一つの論拠が、納付率だ。国民年金の納付月単位でみた納付率は06年度で66・3%だが、厚生労働省は会社員やその妻の専業主婦なども、厚生年金に加入すると同時に基礎年金に入っていることから、これも納付者に含め、「納付者は95%だ」と強調する。
確かに、公的年金加入者7041万人でみれば、未納者(06年度322万人)は5%程度だ。だが、給与天引きで強制的に保険料が徴収される会社員などを含めて未納率を出すことに、意図的なものを感じざるを得ない。
納付率はまた、低所得で保険料を免除されている人を含めると、実質的に49%。満額を払っている人は2人に1人もいないというのが実態でもある。
未納者は将来、無年金者や低年金者となり、全額税財源の生活保護受給者となって、全体の社会保障費が膨らむ可能性もある。年金財政に直接影響しなくても、社会全体にとってはコスト増だ。
06年度の実質的な未納率を年代別でみると、20~24歳73・1%▽25~29歳59・6%▽30~34歳53・8%▽35~39歳52・6%--と、若年層ほど高い。学生の納付特例の影響もあるが、若年層ほど既に「国民皆年金」ではなく、「世代間の助け合い」という制度の基本が危うくなっている影響の大きさを試算は考慮していないという問題もある。
シンクタンク「日本総研」の西沢和彦主任研究員は「『未納は財政的にはほとんど問題ない』という言い分は、国民皆年金制度の放棄にも聞こえる。まじめに保険料徴収をする気がないと疑われても仕方がない。基礎年金の仕組みを会社員が知らないからこそ成り立つ言い方でもあり、厚生年金への甘えが見える」と批判する。
◇負担増える会社員
国民年金の未納は会社員も人ごとではない。財政上は基礎年金という枠組みでつながっているからだ。未納がなくなれば、負担はどう変わるのか--。
05年度決算でみると、基礎年金額16・4兆円を厚生年金4177万人(70%)、共済年金614万人(10%)、国民年金1170万人(20%)で人数に応じ分担した。負担額は厚生11・5兆円、共済1・7兆円、国民3・2兆円だった。
ただ、国民年金の1170万人は未納や保険料免除の人を除いており、その分を会社員や公務員、まじめに保険料を払う自営業者らが肩代わりした(積立金取り崩しなどで対応)。未納などがなくなったと仮定すれば、国民年金の加入者は2157万人に膨らみ、国民年金の負担額が増え、会社員などは減る。
会社員などの保険料(本人負担のみ、会社負担を除く)を1人当たりの月額で試算すると、未納などがある場合は7455円だが、ない場合は6396円。月1059円負担が減る結果となった。
厚労省年金局は「公的年金は助け合いのシステム。未納で負担増になっても理解してもらうしかない」と話す。しかし、未納問題は会社員などにとって「財政的に影響はない」の一言では済まされない問題をはらむ。
==============
◇基礎年金
20歳以上60歳未満の全国民が加入する。職種などにより分かれる公的年金のうち、86年に1階部分を共通の基礎年金に再編成した。厚生、共済年金は2階部分に報酬比例年金があるが、国民年金は1階部分だけのため、「国民年金(基礎年金)」と表記される。現在、財源の3分の1を国が負担している。
空洞化が進み、持続性が危ぶまれる年金財政。だが、政府の社会保障国民会議は「現行制度で国民年金の保険料納付率が変わっても、基礎年金財政への影響は少ない」との試算を出した。その通りなら、未納問題が発生しないことがメリットの税方式(基礎年金財源をすべて消費税で賄う)は、導入の大きな根拠を失うことになる。額面通りに受け取っていいのだろうか。【中西拓司】
◇給付減で均衡保つが、「世代間の助け合い」崩壊
国民会議は、現在の保険方式の下で将来の国民年金保険料(今年度1万4410円)の納付率を90%、80%、65%の三つに分け、年金財政への影響を試算した。その結果、基礎年金給付費(09年度見込み19兆円)は50年度で、納付率の低下に応じて低くなり、納付率90%で57兆円▽80%で56兆円▽65%で55兆円--となった。
これは、未納が増えれば、短期的には保険料収入が減るが、未納期間のある人はその分、将来の年金給付も少なくなるためだ。試算の通りなら、長期的には年金財政の均衡は崩れず、影響は限定的ということになる。
影響が小さいとするもう一つの論拠が、納付率だ。国民年金の納付月単位でみた納付率は06年度で66・3%だが、厚生労働省は会社員やその妻の専業主婦なども、厚生年金に加入すると同時に基礎年金に入っていることから、これも納付者に含め、「納付者は95%だ」と強調する。
確かに、公的年金加入者7041万人でみれば、未納者(06年度322万人)は5%程度だ。だが、給与天引きで強制的に保険料が徴収される会社員などを含めて未納率を出すことに、意図的なものを感じざるを得ない。
納付率はまた、低所得で保険料を免除されている人を含めると、実質的に49%。満額を払っている人は2人に1人もいないというのが実態でもある。
未納者は将来、無年金者や低年金者となり、全額税財源の生活保護受給者となって、全体の社会保障費が膨らむ可能性もある。年金財政に直接影響しなくても、社会全体にとってはコスト増だ。
06年度の実質的な未納率を年代別でみると、20~24歳73・1%▽25~29歳59・6%▽30~34歳53・8%▽35~39歳52・6%--と、若年層ほど高い。学生の納付特例の影響もあるが、若年層ほど既に「国民皆年金」ではなく、「世代間の助け合い」という制度の基本が危うくなっている影響の大きさを試算は考慮していないという問題もある。
シンクタンク「日本総研」の西沢和彦主任研究員は「『未納は財政的にはほとんど問題ない』という言い分は、国民皆年金制度の放棄にも聞こえる。まじめに保険料徴収をする気がないと疑われても仕方がない。基礎年金の仕組みを会社員が知らないからこそ成り立つ言い方でもあり、厚生年金への甘えが見える」と批判する。
◇負担増える会社員
国民年金の未納は会社員も人ごとではない。財政上は基礎年金という枠組みでつながっているからだ。未納がなくなれば、負担はどう変わるのか--。
05年度決算でみると、基礎年金額16・4兆円を厚生年金4177万人(70%)、共済年金614万人(10%)、国民年金1170万人(20%)で人数に応じ分担した。負担額は厚生11・5兆円、共済1・7兆円、国民3・2兆円だった。
ただ、国民年金の1170万人は未納や保険料免除の人を除いており、その分を会社員や公務員、まじめに保険料を払う自営業者らが肩代わりした(積立金取り崩しなどで対応)。未納などがなくなったと仮定すれば、国民年金の加入者は2157万人に膨らみ、国民年金の負担額が増え、会社員などは減る。
会社員などの保険料(本人負担のみ、会社負担を除く)を1人当たりの月額で試算すると、未納などがある場合は7455円だが、ない場合は6396円。月1059円負担が減る結果となった。
厚労省年金局は「公的年金は助け合いのシステム。未納で負担増になっても理解してもらうしかない」と話す。しかし、未納問題は会社員などにとって「財政的に影響はない」の一言では済まされない問題をはらむ。
==============
◇基礎年金
20歳以上60歳未満の全国民が加入する。職種などにより分かれる公的年金のうち、86年に1階部分を共通の基礎年金に再編成した。厚生、共済年金は2階部分に報酬比例年金があるが、国民年金は1階部分だけのため、「国民年金(基礎年金)」と表記される。現在、財源の3分の1を国が負担している。