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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

越後妻有まつだいに咲ける花

2016年08月07日 | 美術
 ふるさとに帰省していたのは、先月の土用の入り19日から大暑の22日までのこと。例年より少し早い帰省で、もうすでに二週間と少しの時がたってしまった。お盆前にお墓掃除とお参りを果たした後は、菱ケ岳のふもとの鉱泉に行ったり、翌日上越高田公園の早朝ハスを見たあとには、老舗の料亭「宇喜世」の舞台つき格子天上が豪華な大広間でランチしたりと、のんびりと過ごしてきたのだった。

 帰路、ほくほく線まつだいの駅前を通りかかって、オランダの建築家グループMVRDV設計の白い巨大なクモの様な「まつだい雪国農耕文化センター」“農舞台”がみえてきたとき、昨年の思い出がフラッシュバックしてきたかのような錯覚にとらわれた。そこで始まったばかりの『花』をテーマとした展覧会「どうしてみんな、花が好き?」をやっぱり見ていこうと思ったのだった。
 駅前に車を止めて、地下道構内を通り抜け、反対側に出てすぐの建物内にあるギャラリーに入ると、蜷川実花のフラワー大写し、森山大道の路端に咲く花々の写真、たしか二回目のトリエンナーレの十日町市街で見た中川幸夫の書「花狂」、階段を利用したインスタレーションと花々の映像の組み合わせなど、百花繚乱といった作品の世界が広がる。

 館内の食堂で早めの昼食をとることにした。床、壁、椅子はすべてペパーミントブルーで統一され、テーブルは鏡面になっていて、農家の窓から見えている日常の里山風景を組み合わせプリントした天井パネルを映し出す。大きく川側にとられたガラス窓からは、カバコフ夫妻の『棚田』が真正面に位置する。農夫をかたどった五つのシーンを表わすオブジェと一連の稲作作業を記した立体詩篇からなるその作品が、本物の里山棚田風景とリンクして望める絶好のロケーションを、期せずして一人占めすることとなった贅沢な時間だ。

 屋上に昇って外に出ると、さすがに厳しく蒸し暑さが増している。大暑の日の陽射しは、真っ白の床に反射してまぶしく目がくらむかのよう。周囲の緑の風景の中に見下ろせば、熱帯植物と見まごうかの赤・緑・黄・青原色の大輪の花オブジェが、2003年以来ずっと送電線鉄柱と鉄道路線に挟まれた小高い丘のうえに咲き続けている。じつは、はじめてこの作品をみたときには、強烈なエネルギーと同時に違和感のようなものを感じた。
 ここに来るたびに、この「花咲ける越後妻有」の迫力、インパクトはなかなか大したものだと思うのは、その上を高圧電力がまたぐと同時に、豪雪地帯に暮らす人々の宿願として、ようやく20世紀の終わりに開業した第三セクターの鉄路がそのすぐ脇を疾走しているからだろうか? はたして作者の草間弥生は、制作にあたってこの歴史と風土にどんな思いを寄せていたのか、それとも作品がここに置かれることでこの地の気候や精霊に誘発されて成長してきたものか、どちらなのだろう?




 草間弥生「花咲ける越後妻有」と「まつだい雪国農耕文化センター」“農舞台”(2003年竣工)


 都会にむけて越後妻有アートトリエンナーレのイメージを決定づけたショットのひとつを模して。
 曲がりくねった雄しべの蒼に白の水玉模様、空の青と白い雲がコラボしてるかのよう。雌しべはどこにある?