日々礼讃日日是好日!

まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

1941年、ボブ・ディランとポール・サイモンは同い年生まれ

2016年11月03日 | 音楽
 11月はじめ曇り空のもと、まほろ天満宮の骨董市へ行ってきた。駅改札をでてすぐのマクドナルドでまずは朝マック。ここの店舗は、ガラス張り円筒形二階建ての造りで元平和相互銀行だったところだ。その二階の席からは街中が見渡せる。その昔、広島アンデルセン本店が旧日本銀行広島支店銀行なのを知り、しかもその設計が長野宇平治であることに驚かされたが、ここも元銀行の融資フロアがいまはファーストフード店というのがなんとも不思議で、時代の変転を物語っていている。正面にはジーンズ専門のマルカワ本店が見えている。ここの建物外観は、シースルーエスカレーターにイルミネーションつきのエレベータと、いまとなっては懐かしい1980年前後の流行の香りを漂よわせている。

 駅から街頭をぬけて約十分ほど歩くと、同じ目的で会場へと向かう人々の流れに合流する。JR横浜線跨線橋を渡ると、もうすぐに雑多な陳列品が並ぶ境内入口に至る。思いのほか、外国人の姿が目について、交わす言葉に耳を傾けているとフランス語、韓国語が聞こえてきて、その姿格好からするとおそらくは在日なのか、エキゾチック・ジャパンを目指して、はるばると東京郊外まで熱心に足を延ばしているのだろう。
 しばらく境内を見て歩くと、ちょうど欲しかった美濃焼だろうか、夫婦湯飲み茶わんが格安値段で出ていた。作者名書き入りの桐箱つきで、骨董初心者としてはちょっとした満足感をくすぐられるようですぐに手に入れる。あとは、軽く流してアンティークジュエリーで掘り出し物があればくらいの気持ちで見て回るのは、休日初日にふさわしく楽しいものだ。駅近くのはずれまで戻って、地中海料理「コシード・デ・ソル」で昼食。店主が標榜する地中海料理の中身は、スペインやイタリア風のメニューのようで、安くて美味しいから、平日も近くのホワイトカラーやアベックたちでたいそうにぎわっている。

 ボブ・ディランがノーベル文学賞発表後二週間の沈黙をへて、事務当局に対して受賞の意志を伝えていたことが先月末に報道された。沈黙の理由として「受賞に唖然として、何というべきか言葉を失っていた」というのだから、七十五歳の年齢もあわせて考えると、実に等身大のディランがそこにいて、世間並みの人間臭さを感じさせたものだ。これは、やはり素直に喜ばしい出来事で彼が述べたとおり、「素晴らしい、最高だ。いったい誰がこんなことを想像しただろう」に違いない。

 そこで、ふと思ったのはこの次に受賞してもおかしくないミュージシャンは誰だろうということ。すぐに頭に浮かんだのは、ポール・サイモンで、この二人年代的にも近いと思って調べてみたら、なんと1941年生まれの同い年でディランが五月生まれ、ポールが10月生まれである。となると、今回のニュースを知って真っ先にそのように思ったのは、初期の頃ディランに影響を受けて詞を書き始めたと公言しているポール・サイモン自身かもしれないと想像する。もうひとり、ここのところの日本人の文学賞受賞予想候補の常連、村上春樹の場合はどうだろうか。これは大方の予想としては、ディランの受賞によってより可能性が高まったとみるのが妥当だろう。
 
 
 村上春樹自身が「三十六歳の誕生日に第一校が完成した」と語っている『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年刊)には、ディランの「激しい雨」(1963年の「フリーホリーイン」収録、1976年アルバムタイトル)の一節が引かれていて、その歌声は「まるで小さな子が窓に立って雨降るをじっと見つめているような声なんです」と形容されている。ひとつの楽曲が、二十年を経て日本のひとつの小説作品世界に象徴的に登場し、ようやく五十年を経て世界文学の可能性を拡げたと公認されたのだから、小さな波紋の広がりと時間軸の長さを示していて、その事実の前にしばしの沈黙が生じるもやむなし、と思うのだ。
 ともかくもこの機会に発売と同時に買ったあと本棚にしまい込まれたままの「世界の終わりに」向き合ってみよう。その中で「激しい雨」はどう響くのだろうか。