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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

まほろ駅前にて、 ハルキムラカミ短編小説「ドライブ・マイ・カー」

2013年11月10日 | 日記

 休日の9日午前、町田市民フォーラムでの田崎真也氏の講演を聴きに行く。演題は「世界的ソムリエが語る 五感で食を楽しむ秘訣」、これが単なるワインのうんちくじゃなくて「味覚、嗅覚とコトバ」にかかわるなかなか根源的なお話なのだった。先週3日の三浦しをんトークショーの内容とも関連するところがあると思いあたる。なかなか興味深くいろいろと考えさせられることがあったのだけれど、それはまた別の機会にゆっくりとまとめることにして、今晩はそのあとの出来事について書きたいんだ。

 講演会がお昼すぎに終わり、急いで1階の本屋さんにいき、発売されたばかりの総合雑誌「文芸春秋12月号」を手にして、村上春樹の新作短編小説のページを括る。「ドライブ・マイ・カー」、ビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」の最初の曲と同タイトルの86枚の作品、副題にやや小さい文字で「女のいない男たちへ」とある。村上春樹と「月刊文芸春秋」のイメージがどうも結びつかないのだが、考えてみれば著者も64歳、団塊の世代だ。まあ、ともかく挿絵入りのタイトルクレジットされた330頁から読み進めることにする。

 主人公「家福(かふく)」は、50歳過ぎの中堅俳優で恵比寿に住んでいて、数年前に同業のつまり女優の妻を亡くしたばかりだ。その家福が愛車のイエローサーブ900を修理から受け取るところから物語が始まる。当面の間、運転代行が必要になり修理屋から「渡利みさき」という若い女を紹介される。みさきは24歳、北海道中頓別町生まれ、北区赤羽のアパートに住み、身長165CMの無口な性格、面接には男物のジャケットに黒のスニーカーを来て現れた。女性ドライバーはどうかと危惧していた家福だが、実際に有栖川公園周辺を運転させてみると見事なギアシフト切り替えとハンドルさばきに感心し、雇うことに決める。
 このあたり、やたらと実在の地名が人物に関連した属性として書き込まれているのがおもしろい。たとえば、北海道中頓別町といったら道北宗谷支庁のオホーツク海に面した海岸から20KMほど山間の町で、まず普通の人は訪れない土地だろう。何故、村上春樹がその地の設定を選んだのか不思議な気がする。ただ思い浮かぶのは「羊をめぐる冒険」の中で、主人公が探し求める★マーク付きの羊が飼われていた牧場のある十二滝町に近いといえば近いが、さらにその北上にある。
 それと今回の短編にでてくる二人の女性うち、主人公家福の妻はやはり!美人だが、ムラカミ小説の定石らしく若くして子宮がんで死んでしまっている。もうひとりのいわくありげなドライバー、みさきは“いわゆる”美人の範疇ではないのが意外な感じだがそこは、やはり魅力的な存在で気をひく。なかなか若いのに浮ついた素ぶりの全くない振る舞いで、終盤になって家福の心中に微妙な変化を与える。

 さて、読み進めるうち主人公の家福は、亡くなった妻の情事を心に秘めていることが明らかになる。妻は結婚後の存命中、四人の男と性的関係を持っていたことがあり、最後の男高槻は家福と同業の俳優だった。家福がその男と都内のバーで何度かあって話を重ねるうちに、不倫の関係とはいえ高槻は真面目に妻のことを愛していたことを知る。最後に二人が会うのは、南青山の根津美術館裏のバーで、この地名も最新作「色彩を持たない多崎つくる・・・」で、主人公が恋人紗羅を表参道で見かけるシーン設定を思い出させ、ムラカミワールドのよくある範疇港区内だと納得させられる。なんだかリッチなんだよなあ。
 家福は、亡き妻が男に抱かれる姿を想像して、嫉妬以上の復讐に近い感情を抱くと同時に、「彼女はなぜあの男と関係しなくてはならなかったのか」と妻の喪失感を埋め合わせるものが自分には何か決定的に欠如してたのでないかと思いつめ、その想いから抜け出ることができずに悩み続けるのだが、あるとき車中のみさきにその悩みを打ち明けてしまう。はたして、みさきはどのように答えたのか?
 それはやはり読んでのお楽しみ!なのだが、そこで家福とみさきとの今後の変化が暗示されて物語は終わる。これまでの村上春樹の描く世界が初めて50代を主人公にした物語として提示されたことが興味深い。まあ、でもどうしてムラカミ小説では登場人物はつぎつぎと性的関係を重ねるか、亡くなっていくのだろう?まるで喪失感を埋め合わせるように、出会った男女はいとも簡単にセックスをする。

 本屋さんをでたあとは、通りをぶらぶら駅方面へ向かうと「まほろ駅前多田便利軒」のロケされた古いビルの横を通る。ここが便利軒事務所か、なつかしいな。その先にはまったくの偶然だが、松田龍平が演じたまほろの主人公と同名のラーメン屋「ぎょうてん屋」がありまする。せっかくだらここで昼食をとることに。
 そして最後は、地元の老舗本屋久美堂へ。店頭にて山積みの「まほろ駅前」シリーズ三部作完結編が発売中。おおー、なんと著者直筆のポップ書きを見つけ、恐縮しながらめったにないシーンをパチリと失礼させていただき名古屋の友人Mへメールで送ると、すかさず「ホホー、さすがご当地!」と返信あり。友人M「私も読もっと」、はい同感です。今日はいろいろと忙しかったなあ。ちょっと満腹、購入は次回にします。


「まほろ駅前は大騒ぎ、にぎわってます!」「カリスマ書店員ならぬ作家じきじきのポップ書き」









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