2019年秋に上演された、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作・演出、そして我らが多部未華子さん主演による舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム/カフカ第4の長編』が先日、NHKのBSプレミアムにてテレビ放映されました。
『失踪者』『審判』『城』に続く、フランツ・カフカ4作目の長編小説の遺稿が発見された!? そして、誰も知らない「カフカ未発表長編」が舞台化されたら? KERAが書き下ろす最新作に、多部未華子、瀬戸康史、音尾琢真、大倉孝二、村川絵梨、犬山イヌコ、緒川たまき、渡辺いっけい、麻実れいetc…といった豪華キャストが集結!
3時間に及ぶ長尺で、しかもカフカという小難しいイメージの大作家をネタにした舞台ってことで、私はちょっと尻込みしてたんだけど、観たらこれがめっぽう面白い!
描かれるのは、カフカが晩年に公園で知り合った少女に託した(という設定の)未発表小説の物語世界と、その時代の現実世界と、2019年の現実世界。
その小説が現代で借金をこじらせてる渡辺いっけいさんの手に渡り、彼はそれを出版社に売ろうとするんだけど、なぜか横取りしようとした大倉孝二さんもろともカフカの時代にタイムスリップしちゃう。
で、アホな2人がカフカ本人や周りの人たちと関わったことで小説の内容が変わり、現実の未来にも影響を与えてしまうという、カフカの不条理劇にタイムトラベル物の面白さをミックスさせた、シュールでありながら誰が観ても楽しめる娯楽大作に仕上がってます。
多部ちゃんが演じるのは、現実には存在しないカフカ小説『ドクター・ホフマンのサナトリウム』の主人公=カーヤで、その婚約者=ラバンが瀬戸康史くん。
全てはサナトリウム(結核など長期的な療養を必要とする人のための療養所)に長期入院してるカーヤの妄想だった?みたいなラストシーンはやっぱよく解んないけどw、そこは「カフカっぽく」見せる為の雰囲気作りみたいなもんでしょうから、深く考える必要は無いんだろうと私は思います。
これはKERAさんによるカフカ小説の二次創作、あるいはパロディみたいなもの。映画でもけっこう名のある監督さんがヒッチコック監督や小津安二郎監督に憧れすぎて、彼らの作風を完コピして新作を撮ったりしてますからねw
だからカフカの小説をよく知ってる人ならもっと楽しめるだろうし、誰よりもKERAさんご自身が楽しんで創られてるに違いありません。観ててそれが伝わって来るんですよね。
舞台演劇でありながら見せ方がすこぶる映画的で、KERAさんは在りもしないカフカ小説をでっち上げるだけじゃ飽き足らず、それを映画化したらこんな感じだろうってw、そこまで妄想してこの舞台を創られたんじゃないでしょうか?
そんな遊び心が随所に感じられ、シュールでありつつ決して難解じゃないし、もしかするとこれまで私が観て来た多部ちゃんの舞台の中で、面白さで言えば本作が一番になるかも知れません。3時間がちっとも長く感じませんでした。
多部ちゃん(結婚後の初仕事?)の安定感は言わずもがな、何役も巧みに演じ分ける瀬戸康史くんの演技力にも感嘆したし、いっけいさんと大倉さんが組めば面白いに決まってるしw、『サロメ』でも多部ちゃんとガッツリ組まれた麻実れいさんの存在感、村川絵梨さん、犬山イヌコさん、緒川たまきさん、皆さん素晴らしかったです。
う~む、これを劇場でナマで観られなかったのは至極残念。演劇で途中眠くならなかったのは、もしかすると今回が初めて? KERAさんの舞台にはハマるかも知れません。
セクシーショットは、今回なかなかの悪女っぷりを見せてくれた村川絵梨さんです。
おっしゃるとおり映像的、サウンド的アプローチは突出して刺激的で現場でのインパクトは凄かったです。
さすが若いとき過激なロックバンドをやっていたKERAさんならではの感性は異質の輝きを放ってます。
現場に行くのは楽しみではありますが、テレビでやってくれるのもアップで多部ちゃんが見られるので良かったです。
多部ちゃんには次から次へと有能な演出家からのオファーが続いてるので、これからも楽しみです。
次の舞台が観られる日が早く来るといいですね。
もちろんドラマも・・・
松尾スズキさんの舞台は、変化球の数々に作者の臆病さを感じるのですがw(そこがチャーミングなんですね)、KERAさんはあくまで堂々たる直球勝負で、そこが私のツボにハマったんだろうと思います。また多部ちゃんと組む時が来るでしょうから、その時は是非ナマで観たいものです。
『ナギサさん』の延期はタベリストにとってダメージ大きいですよね。時期がズレるだけなのか、短縮されるのか、最悪は中止なのか、前例を知らないだけに全く予想がつきません。ホントまさかの展開です。