☆第94話『恐怖のテレホン・セックス魔!』
(1979.1.17/脚本=長坂秀佳/監督=天野利彦)
船村刑事(大滝秀治)の妻=加代(風見章子)の友人である主婦=洋子(八木孝子)が、昼夜問わず掛かってくる性的イタズラ電話に悩まされており、船村が相談に乗ります。
脅迫罪は成立しないし事件としても扱えないって事で、いくら洋子が救いを求めても警察は動いてくれなかった。その汚名を晴らす為にも何とかこれを解決したい船村は、プライベートな時間を全て「イタズラ電話」の捜査に注ぎ込むのでした。
ところが、そんな船村の熱意が裏目に出ちゃいます。洋子の代わりに電話に出た船村を、夫だと思い込んで「俺とあんたは兄弟だぜ、はあはあ」だの「奥さんのカラダは本当に美味しい、うひひひ」だのと調子に乗る犯人に、船村はつい激昂しちゃう。
「いい加減にしろっ! 私は警視庁特命課の船村という者だ! いつまでもこんな事してると為にならんぞ、バカヤロウっ!!」
それがかえって火に油を注いでしまい、その日以来、犯人はターゲットを洋子に絞り、ますます頻繁に電話を掛けて来る。それを妻の浮気だと誤解した夫が家を出ていき、残された洋子は幼い娘2人を抱えて、いよいよ発狂寸前の状態。
とにかくイタズラ電話から逃れたい一心で電話番号を変えようとする洋子を、船村は必死に引き止めます。犯人を割り出すには手懸かりが無さすぎて、かかってくる電話の内容からヒントを得るしかない。番号を変えたらそれが出来なくなる。
「奥さん、ここ数日あなたがどんなツラい思いで過ごされたか私にはよぉく解ります。それだけに私はこのホシが憎い! 何としても必ずあなたのご苦労に報いるように、解決してみせます!」
そんな船村の本気を見て、洋子も覚悟を決めるのでした。
犯人の嫌がらせはますますエスカレートし、宅配便でセクシー下着が送られて来るわ、勝手に救急車を呼ばれるわ、しまいに猫の死骸が玄関先に吊るされるわで、洋子は次第に追い詰められていきます。でも、船村たちにはかえってそれがチャンスになる。
「よし、ここまで来れば立派な脅迫罪だ!」
特命捜査課の刑事たちは、ようやく船村の捜査に堂々と協力できるようになって喜びます。が、当の船村は浮かぬ顔。
「私は恥ずかしい……警察は何もしてくれない、ホシが何かして来るまでは手を出せない、私はそういう現状を何とかして打ち破って見せたかった! だが駄目だった! 多くの警察官がするように私が見過ごしていれば、たかがイタズラ電話と笑って取り合わずにいれば、こんな事にはならなかった! それが悔しいんだ!」
確かに、この手のサイコパスは構えば構うほど図に乗ってしまう。現在のネット世界にはびこる「荒し」と同じようなもんで、徹底的に無視するのが一番の対処法かも知れません。
だけど、それで自分は難を逃れたとしても、サイコパスはまたターゲットを変えて同じことを繰り返す。とっ捕まえて、とことん反省させない限りこの闘いは終わらないのです。
ともかく事件として成立したことで特命課も動きやすくなり、船村の執念と、その妻=加代の協力もあって、ついに容疑者が1人に絞られます。
それは美容師の森浦という一見イケメン風の若い男。演じるは第29&30話でプルトニウム爆弾魔に扮した、西田健さん。「魔」と言えばこの人なんですw
この役を演じて以来、西田さんは「元祖テレホンセックス魔」と呼ばれるようになって困惑されたそうですw 西田さん曰く「それ以前から性的イタズラ電話は蔓延してたから、僕は元祖じゃない」「そもそも『魔』というのは相手を虜にしてこそ『魔』なのであって、あの奥さんに最後まで拒絶されてた僕は『魔』でも何でもない」とのこと。確かにそうかも知れないけど、どうでもいいですw
「どこへ掛けてるんだっ!?」
その森浦をずっと尾行してた船村は、彼が駅の公衆電話で「奥さん、はあはあ」って言ってる現場をついに押さえます。
ところが! 森浦から取り上げた受話器から聴こえて来たのは、天気予報のアナウンス。尾行に気づいてた森浦は、イタズラ電話するフリをして船村を罠に嵌めたのでした。
「森浦、貴様っ!」
「呼び捨てですか? あなたも名乗って欲しいですね」
「俺は警視庁特命課の船村だ!」
「用事は何ですか?」
「電話だよ! お前、あの奥さんに電話したろっ!?」
「電話、電話って……電話で僕が何を言ったって言うんですか?」
「とぼけるな貴様っ! 奥さん、私とテレホンセックスしましょうとか、旦那が家にいなくて寂しいだろうとか、いま何を着てるんだとか、お前、あの奥さんに電話しただろっ!?」
「へえ~、世の中にはいやらしいヤツがいるもんだな。手、どけてくれます?」
全ては、森浦の思う壺。彼はわざと船村に公衆の面前で腕や襟首を掴ませたばかりか、今の会話を小型テープレコーダーで全て録音してました。
翌日、洋子の家に呼び出された船村は、昨夜かかって来たイタズラ電話の録音テープを聴かされ、愕然とします。スピーカーから聴こえて来たのは、今までとは違う新たなテレホンセックス魔の声でした。
『俺は警視庁特命課の船村だ! はあはあ……奥さん、私とテレホンセックスしましょう、ふがふが……旦那が家にいなくて寂しいだろ、はあはあ……いま何を着てるんだ、うひひひ!』
やられました。森浦はあれから自宅に戻ってすぐ、録音した船村の声に自分のいやらしい吐息を足して編集し、洋子のみならずアチコチの家に電話しまくってたのでした。なんたる執念!
「……確かに私の声です。しかしこれはテープを編集したものだ。ゆうべヤツが私を挑発して録音した声を……いやあ、見抜けなかったなあ……迂闊だった!」
そんな船村を涙目で見つめる洋子の、なんとも情けなげな表情がたまりませんw そりゃ内心「じじい、何してくれてんねん?」ってなもんでしょうw
森浦はさらに、船村の暴力によって全治4週間の怪我を負わされたと刑事訴訟を起こし、新聞には『暴力!! ワイセツ電話の老刑事!』との見出しが躍ります。本当に憎たらしい! けど、面白いですw
やることなすこと全て裏目に出て、いよいよ崖っぷちに立たされた船村は、何より妻=加代に心労を掛けるのが忍びなく、自宅で辞表をしたためるんだけど、そんな船村に加代は『妻を辞めます』と書いた辞表を提出するのでした。
「私も刑事の女房です。これしきのことに耐えられない女とお思いなら、私のことが気になって刑事をお辞めになるつもりになったのなら、これを見て下さい」
「………………」
「私は、これまでどんな大きい事件を解決された時のあなたよりも、今この小さな事件に取り組んでおられるあなたを尊敬しております」
エイドリア~ン!! って叫ぶボクサーの映画を知ってるかどうか分からないけど、妻の言葉でがぜん奮起した船村は、再び森浦を徹底マーク。そしてついに、彼がイタズラ電話をかけたことを証明する動かぬ証拠をゲット!
一方、船村にすっかり闘争心を掻き立てられた森浦は、洋子にこんな電話を掛けて来ました。
「俺はこれから面白いことをする。恨むんだったら船村っていう刑事を恨むんだな。奥さんも素敵だけど、娘さんも可愛いんだってな……うひひひ」
それで洋子はまた発狂状態になっちゃうんだけど、幼稚園に通う洋子の娘はすでに特命課の吉野刑事(誠 直也)がガードしてました。そう、鬼刑事の本領を取り戻した船村は、テレホンセックス魔の行動を先まで読んでいた。
森浦に呼び出されて駅に向かう洋子をあえて泳がせ、辛抱強く尾行した船村の前に、いよいよテレホンセックス魔が姿を現します。
「森浦あーっ!!」
老体に鞭打って、走る! 走る! 走る! 頭を禿げ散らかして、走る! 走る! 走る!
若手の津上刑事(荒木しげる)も参戦し、とうとう船村の執念がこもった手錠が森浦の手首に食い込みます。幼児誘拐まで予告したテレホンセックス魔の刑罰は、決して軽くはない筈です。
誤解を解いた洋子の旦那も家に帰って来て、なんとか一件落着。森浦と格闘した際に眼鏡を壊されちゃった船村も、画像をご覧のとおり満面の笑顔。エイドリア~ン!! (おわり)
たかがテレホンセックス魔、されどテレホンセックス魔。このテの粘着質野郎にいったん取り憑かれたら、並大抵のことじゃ逃げられない。このエピソードで描かれた騒動は、決して大袈裟じゃないし他人事でもない。
情報網が発達した現在の方が、もっと陰湿で巧妙な手口の「魔」があちこちに、私やあなたのすぐそばに潜んでるやも知れません。そんな輩に我々を虜にするような魅力は微塵もありませんから「魔」とは呼べないのかも知れないけど、まぁどうでもいいですねw
とにかく、こういうネタを大真面目に扱えるのも『特捜最前線』の強みかと思います。例えば『太陽にほえろ!』では(セックスをタブーにしてることを抜きにしても)山さん(露口 茂)や長さん(下川辰平)が「奥さん、テレホンセックスしましょ!」とは絶対に言いませんw
王道を突っ走る『太陽~』には出来ないことを、こぞって他の番組がやる。ジャンルは同じでも味わいが全然違うから飽きが来ない。演じる役者が違うだけで内容はどれも変わんない現在の刑事ドラマでは、決して味わうことの出来ない面白さです。つくづく、いい時代でした。
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