老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

鈴  虫

2020-09-06 04:12:35 | 空蝉
1663 鈴  虫

時計の針は只今三時四拾八分
外はまだ暗い
草葉から鈴虫の鳴き声が聴こえる
短い四月の生命

日中の暑さとは違い
鈴虫の鳴き声とともに
涼しい風を感じる

羽を擦り合わせ
鈴音を鳴り響かせ
短い秋の暗闇に
生命を燃やす

朝露に濡れながらも
あなたを想い
奏でる鈴の音は
寂しく切ない

隣の家は雑草が生え
ひとり暮らしの主は入院療養中
肺癌から躰のあちこちに骨転移
麻酔で痛みをこらえている

脳梗塞後遺症も重なり
歩くことができなくなった
主は鈴虫の鳴き声が聴こえる
「家に帰りたい」と呟く

鈴虫の鳴き声を聞きながら
この先短い生命を思う
もう少しで夜が明ける



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