思いがけない処に咲いた朝顔? 昼顔?
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夢知らせ
いねさんは、急いで帰りの支度をする。
帰り際、彼女は職員に挨拶に来た。
「お父ちゃんは南方まで戦争に行って、苦労したんだ。
陸軍中尉までになったが、復員してきたときには
半分アル中気味だった。
頑固な人じゃった。
長年、連れ添った仲。
顔を見てきたら、
また施設のお世話になるのでよろしくお願いします」
と、柩に眠る亡き夫に会いに出かけた。
できるものなら最期は夫に会わせてやりたかった、
誰しもがそう思う。
「夢のなかで、ご主人はいねさんのことを気にかけていたんですよ。
御身に気をつけて暮らせよと言いたくて、夢で知らせてくれたのかもしれないですね」
と慰めの言葉をかけるしかできなかった。
いねさんの夫は1年前から認知症の状態がひどくなり、おむつもしていた。
長男はいねさん夫婦の跡を継ぎ、農業をしている。
顔や手に労働の苦労が刻みこまれ、
実際の年齢よりも老けて見える長男。
認知症の父親と
歩くこともままならぬ母親の世話をすることは、
肉体的も精神的にも無理だということで、
老人保健施設入所の切符を手にせざるを得なかったいねさん。
夫婦離れ離れになってから5月。
初めての外泊が、悲しみの外泊になるとは
誰も夢にも思わなかった。
49日も過ぎ、桜の咲くころ、
いねさんは、夫の位牌がある我が家に帰った。