hinajiro なんちゃって Critic

本や映画について好きなように書いています。映画についてはネタばれ大いにありですのでご注意。本は洋書が中心です。

Sam Riley in Control

2011年02月18日 | 映画
 夏から録画したまま放置していたこの作品をやっと観ました。
 基本的に「有名人の半生をたどる」ような映画はあまり好きではないのですが、これはなかなか興味深く見れました。
 それもこれもやっぱり役者の「惹きつけ力」の効果だと思います。
 主人公のバンドのボーカル、イアンを演じた Sam Riley はオーディションから選ばれたのですが、多分イアン・カーティスにイメージ的に似ていたのでしょうし、役にぴったりというか、まさにこの役をやるために出てきたとしか思えないくらいハマった感じでした。
 演技力があるというよりは、「誰もしらない」のヤギラ君と同じで、演技をしてはいないけれど、目の玉少し動かすだけで、見ている側が各々勝手に主人公の感情を理解してしまう、というパターンのような気もします。基本的に大人しい性格なので台詞も少ないですし、とにかくその目の表情一つと歩く時の姿勢だけで、彼の心の内をこちらに伝えてくるのです。
 サム自身が新人だったからこそ、主人公の成熟していない子供っぽさ、真面目さ、周りに流されていく自分に戸惑いを隠せない姿などを表せたのかもしれません。

 主人公の音楽の世界に関してはよくわからないのですが、彼は本当に音楽活動をしたかったのかな。ただ音楽を聴くこと好きで、心情を詩として表現することが好きだっただけで、ミュージシャンになりたかったわけではないのではないかな。
 だからこそ環境の変化に対応できず、よりどころとして地味な堅気の仕事も続け、ミュージシャンではなかった頃からの繋がりのある妻とも別れることもできなかったというか。

 監督はカメラマンらしく、全編モノクロのこの作品も情景も人物もとても美しく撮られていて、アップのシーンでは役者の表情の良さを十二分に映し出していました。一番印象的だったシーンは、浮気をしていることが妻にバレて、問い詰められているシーン。自分でもどうしていいかわからず、どっちつかずで曖昧な態度をとり続けるイアンですが、階段を上がっていく妻を見つめる表情。その言動は自分勝手で、相手をひどく傷つけているにも関わらず、それまで突き放した視線で見ている視聴者(私とか)をも一気にイアンの側に引き寄せた感じがしました。
 そして仕事を辞めたことと病気への恐怖で、それまでギリギリのところで保ってきていたバランスを失っていくイアンの姿もカメラはじっくり丁寧にとらえていきます。

 イアンは繊細すぎて、後半は生きている姿を見ているのも痛々しくなってくるので、最後に彼のとった行動は私には「あり」だったのですが、一つだけ。

 悪いんだけど・・・・うちに帰ってきてしないで・・・・・そういうの、愛人のところでやって・・・・・

 愛人の彼女の方も我儘にも「奥さんと別れて、私のところへ来て!」と言えていれば、彼に逃げ場をつくってあげられたのではないかな、なんて思いました。
 苦手なジャンルでしたが、最後までしっかり見れた良い作品でした。
 
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