日向で雪遊び

WTRPGやFGOなどのゲーム。
園芸や散策した場所の紹介、他に飲食のレビューなど雑多なブログです

とある春の日の一節を

2009年08月05日 | AFO小説
 桜の花弁が鮮やかに開いては散り、世界の彩りとともに種々雑多な生き物たちが次々に動き始めては高らかに声を上げていく。それはまるで、己の存在を誇示するかのように。
 風薫る春の季節、その時を謳歌するように刀也はのんびりと緑茶を淹れていた。西洋の紅茶も悪くない、大陸のそれも独特で面白そうだ。しかし今は日本茶が飲みたい気分である。
 つくづくこの国の人間だなぁと思いながらお茶請けとともに盆へと載せると、てってこと縁側へと向かった。

「愛~、ちょっと休憩にしよう」

 朗らかな表情で恋人の名前を呼ぶ刀也。
 普段の仏頂面の彼を知る者ならば、きっと『誰てめぇ』な光景として映ることだろう。それくらい他所ではお目にかかれない。

「どうしたんだろ? 返事がないが・・・」

 確かに布団の取り入れを頼んでいたはずだけど。そんなちょっとした疑問符が沸くが、それも縁側に着いて見回すとすぐに氷解する。
 すぅすぅと声ではない声を出し、彼女は柱の一角に体を預け舟を漕いでいた。
 だが心地良い日差しと空気に包まれては、それも無理のない所か。

「相変わらず・・・」

 盆を傍らに置くと、嫌みのない苦笑を浮かべつつ、お陽さまが香る畳まれたばかりの薄い布団に手をかける。
 このまま寝てると風邪をひきそうだ。彼女の側で軽く羽織らせようとし、しかし、ここで意図しなかった感情が現れた。

「・・・そういえば、寝顔を見るのは久々な気もする・・・」

 幸せそうに眠る彼女を見て、最近の事が頭をよぎる。此処暫くの間、他所にばかり足を運んでいた。だが、それも漸く一段落つき、今はこうしている。
 その辺もあってだろうか。こんなことを気に留めたのが少々驚きであった。
 少し余裕が出来たということか? 自分の中の疑問に解答を当てはめるも、しかしそれもすぐに霧散する。

「・・・時間を作るべきかな。せめて、いつも気にかけれるぐらいに」

 自然、彼女へと手が伸び、刀也はごく当たり前の風情で抱きしめていた。
 癖の無いさらりとした髪に絹織物の様な肌、帯びた熱が重なっては柔らかく伝わり、胸の内が音を刻む。
 その熱に充てられたのか、刀也は惹かれた恋人と長い長い口付けを交わした。
 重ねた余韻を楽しみたいのか、ゆるりとそれを離すと、自然、表情がふにゃりと弛緩する。

 だがそれも、淡雪の時間。

 自分の様にはっと気付くや、途端、羞恥心が湧き出て朱に染まるのを自覚する。傍目で見ている人間がいるならば、湯気でも吹かんばかりに映るだろう、それ。
 居た堪れなくなったのか、ふいと思わず顔を下げ、次いでおっかなびっくり彼女の方へと目をやり―――固まった。

「あの・・・トウヤくん・・・」
「あああ、愛!? いや、これは・・・ッ!?」

 どう見ても起きてました。本当にありがとうございます。
 はてさて、どんな対応したらいいのやら。この素敵な状況は、二人を熟れきった林檎の様に染め上げていた。とはいえ、愛が嫌がってはいなさそうのは贔屓目なのか、どうなのか。
 刀也が混乱する頭をどうにか必死に回転させる。動悸が激しい中でどうにか口を開こうとするも、しかし神様はこの程度では許してはくれないらしい。

「………そういうのは、もちょっと人の見えない場所の方がいいと思うんだ」

 突然の声に心臓が一際強く鳴り、びくりと驚き慌てては振り返る。そこには、顔を伏せたミリートが佇んでいた。健康的な肌を耳まで真紅に上気させ、嫌が応にも状況を理解させる。

「ミリー・・・・ト? ひょっとしなくても・・・」
「・・・・・・うん、全部見てた」

 ぱりーん。刀也ん、更なる受難の道へようこそ。
 ぶっちゃけ、自業自得である。情熱の律動に突き動かされたツケは、余りにも大きいようだ。恐らく、刀也の視界は真っ暗であろう。
 三者三様に染まっては混乱する中、どうしようもなくうろたえた刀也が、回らない頭で弁解に駆け回る。

「あはは~、そんな照れなくてもいいですよ~? それに、恥ずかしいのは私の方ですし~」
「……トウヤくん、いっつもあんなことしてるの?」

 しかし、そんなのは当然のように馬耳東風。愛からは子供をあやすような笑顔で抱き締められては宥められ、第三者のミリートからはジト目で容赦ないツッコミがトントコ入れられる。
 詰まる所、
 すごく・・・滑稽です・・・。

 この状況を見ている人がいたら、恐らくこう口にするのだろう。
 春だねぇ、と。




はい、どうも。
今回、刀也んの恋人さんにお越しいただきました。ちゃんとGMさんの許可は取ってありますよ。
うん。まぁ、お馬鹿話がやりたかったんだ、すまない。でも、全く後悔はしていない!
寧ろ清々している!!(オイ)
シリアスもいいのですが、こういう方が楽しいよね!! (ビシィッ)

というか、あれですよ。
刀也んの過去話は無駄に時間かけたのに、お馬鹿話だと割とすぐ出来るって、どういうことなの・・・(爆)



そりゃどうも・・・。
で、ちょっとまて。今回、配役おかしいだろ、色々と! 
普通、俺がやったポジションて愛がなるんじゃないのか!?

(-― )
はっはっは。それだと展開が変わっちゃうじゃないですか。
それに、依頼でヒロイン表記された『男の子』が何を仰るのやら。個人的にはこれで間違ってないつもりです。
つか、刀也んはベタ惚れなんで実際やってそうですし(ヲイ)



―――ッ!? その減らず口を叩けないよう、針で縫って蝋で固めてやる!!


・・・・・・・一番気不味いのは、それを目撃する私なんだけど(ぁ)
トウヤくん、もうちょっと抑えて欲しいかも・・・(顔伏せ)

(-― )
そんな訳で、今回はこれで(ノシ)
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ただ歩いて・・・

2009年07月18日 | AFO小説
 暑い……ただ暑い、夏という時間。湿気を帯びた重い熱は、人の身の心地良さとは程遠い。
 この国特有の四季の円環だが、その季節も過ぎた夕暮れだというのに、汗が薄く滲んでは落ちていく。
早く涼しくなるといいのに。そんな事を胸に少年はそれを軽く拭うと、縁側で夕涼みをしている主の下へと向かった。落ち着いた印象を与える紺の着物を揺らし、そこに首の裏で絞めた漆黒の髪がよく映える。
「ご主君、お身体に障りますので中へ……」
 盆に載せた湯呑を置き、少年は自らの主を見やった。そこに主を慮る色を向けさせて。
 そんな彼を穏やかに見るや、少年の主は茶の礼を口に視線を先程までのそれに戻して見せた。
 それは、鮮やかに染まった小さな木。真紅にはやや遠く、されど蘇芳には赤過ぎる、愛らしい紅葉の木。地面に散った蛙の手が、更にそれを彩らせている。
「心配症ですね~、ふふっ。もう暫く見ていたいと思いましてね。私と貴方の縁の木を」
 置かれた湯呑みで口を湿らせ、主と言われた男は笑みを崩さない。
 そしてその瞳が浮かべるのは、懐古のそれだった。
「……あの時のことも、今は随分と遠いことに感じてしまいます」
「そうですね。毎日がこうも幸せでは、それも致し方のないことでしょう。
貴方を側に置いて以来、それを強く実感していますよ」
「っ!? お戯れはよしてください!?
 でも、ホントにそうでしたら、僕は嬉しいですけど……あっ!?」
顔を伏せる少年を、男は愛おしそうに頭を撫で回す。小声で答えた彼は、更に縮こまってしまった。
「もう、4年ですか……」


―神聖暦993年 夏―
人里近き山中に 黒に塗れし獣在り
闇に乗じて歩みを進め 盗み 奪っては人を食む

 ギャァァン――薄暗い山中に高い金属音が響き渡る。明らかに場違いなそれは、刀剣が交差しあった旋律。同時、片方が衝撃で地に叩きつけられる。そしてそれらの音の数秒後、虚空をくるくると舞う錆びた剣先が、終わりを告げるように大地へと突き刺さった。
「私の勝ちのようですね。もう、抵抗は無意味ですよ」
 黒袴に黒い羽織。見た目の黒染めから鴉を想起させるその男は、だらしなく下げられた切っ先をふらふらとぶらつかせながら、目の前の相手に不用心な風情で視線を注ぐ。先程まで斬り合いをしていたはずだが、余りの落ち着きぶりにとてもそうだとは思えない。
「御大層なお話でしたが、所詮伝聞は伝聞ということでしょうかね。
 とはいえ、驚いた事に変わりはありませんか。まさか獣ではなく、泥塗れの少年だとは・・・」
「・・・・・・っ!!」
 さも他人事のように語られるそれ。少年に刻まれた血筋と打撲は男によって巻き起こされたのだが、自覚が有るのか無いのか……。折れて尚握られる刀が、否応なく締め付けられた。
「そんなに睨まないでください。怖くて敵いません。
 でも、お話は聞かせていただけると嬉しいですね。特に、人喰いの件に関しては」
「……そんなことするか。ただ、金や食い物目的で襲ったことはあった」
方やまるで無警戒に佇む男、方や座り込んで尚抵抗を示す少年。そんな奇妙な状況だが、男は鷹揚なままに続けていく。
「ああ。となるとやはりデマですか。
 まあ、その手の風習がある所も珍しくありませんけどね。何より、こんなご時世ですから。大名方の人身売買や乱取り等も当たり前。盗賊のそれと大差ありません。嫌な世です、ええ本当に。その辺も関係してそうですかね」
 溜め息交じりにそう呟いていたが、ふと、男の視線が別を向く。しかしそれもすぐに戻ってしまう。
 突然視線を戻された為、少年は警戒を更に上げた。先程まで命のやり取りをしていたのだ。殺されると思うのが自然である。
 だが、それは全くの見当違いであった。
「ふふっ。少し安心しました。とはいえ、そうも言ってられませんかね。さてと……」
「お前、何をッ!?」
 ずぐり――――男は躊躇わずに左手を愛刀で突き刺した。溢れ出る鮮血にその手は濡れ、刀身は命を吹き込まれたかのように染まっていく。男は何を考えているのだろう? 更には、それを自分の顔にも塗りたぐった。黒い衣服に赤を讃えたその様は、気味の悪いそれでしかない。
 次いで、男は少年にその羽織を被らせては強引に寝転ばした。無論抗議が返ってくるが、「今は大人しくしててください」と言い、次いで「声を立てずに」と仕草を見せる。
 それから少し、落ち葉を踏み鳴らす音が聞こえてきた。少年からは見えないが、草臥れた服装に土の匂いを漂わせている。麓の村の一人だろう。
「侍の大将、無事でしたか。それにしても、獣ってのは……」
「ああ、どうにか仕留めました。死ぬかと思いましたが、もう大丈夫。ほら、この血糊がその証拠です。噂の獣だけあって、流石に加減が出来ませんでしたけど、ね。なんなら、死体も拝見します? ……原型がないぐらいにずたずたですが」
 優男が瞬時に失せた。そこに在るのは、血に塗れた剣客の顔。
 それが少年の視界に在らずとも、急激に世界が冷えた様な圧迫感を感じさせられた。同時に、村人の腰が引いたことも。
「何にせよ、安心して村の衆に伝えてください。もう大丈夫だと」
 ただ頷いては、男は来た道を些か滑稽な程に駆けて戻る。闖入者が出ていくのを感じ取ると、少年は顔を上げた。その表情に浮かぶのは、得体の知れないモノを見るそれ。
「……どうしてだ? どうしてこうまでして助けた? 僕には、分からない」
 血の滴るそれが布で巻かれる様を、少年は無自覚に見つめていた。なんなのだ、こいつは。
「黒い獣の退治を承ったのですが、獣などいませんでしたから。とはいえ、私も善人では有りません。打算もちゃんと入ってますよ。
『おっかない獣、凄くカッコイイ志士さまが命賭けでやっつける☆』
となれば、忠義立てしている神皇さまの名誉にも繋がりますからね。こういう宣伝は、ある程度派手目なのがいいのですよ。ふふふふふっ」
 張り詰めていた筈の空気は何処へやら。余りのド阿呆振りに呆れた顔になる少年。だが、その上で更に問う。それだけなのか?と。
 男は手を弄ぶように頬を掻き、しかしそれに対し淀みのない様で答えた。
「誰かを敵と判断する、私はそれを厭います。何故なら、敵は打ち倒さなくてはなりません。安易に定めていいものではないと考えます。幸い、当たったことはありませんけどね。
 大事なのは、何を何処迄受け入れるのか、でしょうかね。まあ、個人的な我儘とでも受け取ってください」
 男は変わらず穏やかにほほ笑んでいる。だが、やはり訳が分からない。大きくなった戸惑いの中、全くの予想外な提案が訪れた。
「今日出会ったことを吉とするなら、私と来ませんか? もう暴れる必要もないでしょう。それと、宜しければ、名前をお聞かせ願いたい」
 なんだ? この男は一体何を言っている? 答え様の無い疑問符が更に増えた。その中で分かるのは、自分の名を聞かれたというただ一点。少年は訥々と音を紡ぐ。
「……そんなものは無い。生き残るのに、必要がなかったから」
 しばしの沈黙。しかし、その静寂は破られた。
「では―――丁度手もこんなですし、“刀也”というのがいいでしょうね」
「とー・・・や・・・?」
「汝、カタナ、也。そういう意味です。暫く刀も握れなさそうですから、色々助けてください。頼みますよ?」
「……ッ!?」
 ドクン。何かが大きく鳴った気がする。
 声が出ない。いや、出せない!? それに、身体が熱い。日差しの照りとも、焚火の熱とも違う。これは何なんだろう。
「ああ、そうそう。私としたことがまだ名乗っていませんでしたね。
 私は鞘継、雪切鞘継。江戸を中心に動く、一介の志士です」
 そこに差し出されたのは血染めの左手。布で大雑把に絞めた後も、ポタリポタリと不規則な音を刻んでいる。
「ふふっ、夏の紅葉も悪くない……。こういう出会いも、一興なんでしょうね」
 燈った熱を内に抱き、生まれたての無垢さでただ前を見る。握られていた筈のそれが、カランと音を立てて鳴り響き、少年はおっかなびっくりと手を伸ばす。
「来なさい、刀也。私と共に」
 鞘継の穏やかな笑顔が、刀也にはひたすらに眩しく映った。


「あの時、ご主君に拾われなければ、僕は死んでいたでしょうね。
 ですが、何よりも必要とされたことが嬉しかった。本当に感謝しています」
「おやおや。そんなに堅苦しく考えないでください。ただの気粉れだったかも知れないんですよ?」
「気紛れでも構いません。刀也は、貴方の物です。存分にお使いくださいませ」
 真顔のまま低頭する刀也に、鞘継は苦笑した。本当にこの子は……。
「……変わりませんね、そういう、どこまでも生真面目一途なところは。
 私が馬鹿をやる時は思いっきり諫めてくれますが、それも魅力なんでしょうかね。
 お陰で、知人のお姉さま方に羨ましがられちゃってますよ。あんな可愛い弟が欲しいって。いや~、人気者は持てますね~」
 突然のそれに刀也が気色ばむ。抗議の喚きも、柳の笑顔には暖簾に腕押し。はいはいと涼やかに流されてしまう。
(だが、それ故にどうしようもなく危険でもある。一途とは、薬毒の表裏なのだから)
 笑顔の裏で言葉を飲み込むと、そのままに彼の頭に手をかけた。
「刀也。長い間、今まで良く仕えてくれました。
 私は剣や生き方等を教え、そして共に歩いてきましたが、その中で貴方の向けてくれた真っ直ぐな感情と忠義は、とても気持ちのいいものでしたよ。
 そう―――私も、神皇さまへのそれを見習うぐらいに」
 やはり言わなければなりませんか。酷な事だと理解し、だが必要だと鞘次はそれを口にする。
「……雪切の家を差し上げます。手筈は既に整えました、後はわずかの手間でいい。
これは好きに使って頂いて結構です。幸か不幸か、私には身内がいませんからね」
「お待ちください!? 突然っ!?」
「自分の死期が近いのは自覚してますよ。その為の療養でしたが―――もう刀も大分握っていませんしね。
だから託せる者に託したい、それだけです」
「な、何を弱気なことを!? 僕には、貴方が必要なのです! 主という担い手がいなくて、一体なんの刀だというのですか!! 
 ご主君が死ぬというなら、刀也も供として参ります!!」

 殉死―――この時代において、然程珍しいものではない。
         寧ろそれは歓迎されて然るべきものであった。だが……。

「罪な名前を贈ってしまったのが、私の最大の過ちですかね……。
 刀也、これからは好きに生きなさい。そして気が向いたのなら、あの時の事を恩と想うなら、それが誰かに繋ぐように。私も、そうやって人に手渡されました」
「ですが!!?」
「これが人です。貴方はもう獣ではない。それ故に受け入れなければならないのですよ」
 その言葉に激しさはない。普段と同じ、穏やかに笑う主がいるだけだ。だがそれ故に刀也は何も言うことが出来なかった。
 共に在りたい、自分の一番大切な人だから。だが、これがその人の願いなのはどうしようもなく理解出来る。それだけは裏切れない。絶対に、絶対に。
 刀也は抗い様のない絶望感を自覚し、そして悲しかった。
「あ…ああぁぁぁぁぁぁ……鞘継…さまぁ…ッ!!」
「こらこら、男の子が泣くもんじゃありませんよ、全く……」


―神聖暦997年 秋―
 この年、雪切の家督を継承。同時に、刀也から感情がほぼ失われた。同年、彼は志士の道へと入る。それはただ主の為か、空の方寸を埋める為か。
 また、これ以後、彼の胸の内で当たり前だった忠義の二文字が呪詛の様に渦巻くこととなる。

「……主の居ない刀とは、斯様に無様なものなのか…」

 彼が再び感情を取り戻す端緒は、2年後の冒険者を始めて数多のヒトと触れること。
 しかして、果たして、それで全てが収まったのかは、誰に語ることもなく…。



「………ここ、は…」
「…起きたか? 色々と魘されていたようだ。お前の愛犬に連れられて来てみたが」
 片手で顔を覆いながらゆるりと上半身を起こすと、そこには高町恭也がいた。いつも淡々としている彼の傍らには、愛犬の涼が心配そうに声を立てている。
 項垂れたままに視線を向けると、すぐに刀也はそれを下へと戻した。
「ごぅ…州? そうか、そうだな…。いや、すまない。夢を、見ていた。古い古い夢を」
「…………ふむ? まあ、それはそれとして汗が酷いぞ。これで顔でも拭いとけ」
 布が放られて頭が覆われる。項垂れたまま、無抵抗にそれは受け入れられた。
「……此処は、懐かしいから…土と野の匂いが何処よりも強いから。だからなんだろうな、あんな夢を見るのは」
 あれからもう5年以上、か……実質、喪に服していたようなものだ。そんなことなど、あの人は絶対に望みはしないのに。
 そんな事を思った所為なのか、ふと、身に纏った羽織に目が行ってしまった。そこには誇るように、志士の証が明確に記されている。 
 殺意交じりの自己嫌悪が湧き上がり、次いで自分がどうしようもなく滑稽に思えた。
 何時まで縋る? 何処まで焦がす? 顧みるも、其処に何もありはしない。
――――――――この錆び刀めッ!!


 沈黙を破る息が吐き出された、静かに、だが大きく強く。自然、双眸が定まった。
「………決めた」
「何をだ? というか、先ほどから訳の解らない事ばかりを…。薔薇族にあてられたか?」
 恭也の遠慮ない突っ込みが入る。豪州で刀也が気に入られてしまった相手だが、この意味不明な状況では妥当?だろうか。だが、気安いそれで少しだけ軽くなった気もする。
「そんな訳あるか。あとで話す…その時は頼んだよ」
「…説明がないのでわからんのだが、手の余ることは勘弁だぞ」
「ちょっとした手間と言うだけさ。手はずは此方で整える」
「やれやれ、事務仕事が一つ増えたな」
 淡々とした風情で口にするや、テントの外へと出ていく恭也。視線は戻り、そして刀也は顔を上げる。かけられた布がズレ落ち、音もなく止まって伏せた。
 志士を辞す―――決めて尚胸は痛むのか。じくじくと熱を持ったように疼いている。だけど耐えられない訳じゃない。鞘継さま、僕は前へと進みます。漸く進めそうです。ですが、忘れません。絶対に、絶対に。

 数秒の黙祷。静かに誓いを灯した中、不意に頬先を何かが触れた。ああ、涼に軽く舐められたのか。
どうやら慰めてくれたらしい。
そしてその為に、顔に浮かんでいたそれに気づいた。

 敢えて黙していたのだろう。涼を撫でつつ内では恭也に感謝をし、次いで顔を拭いながらテントを抜ける。そこには、遮るもののない圧倒的な星空が鮮やかに在った。土と野に浸された夜風が火照りを冷やし、それが何とも心地良い。
「いい夜だ…とても、とても………」
 野にいた獣は人となり、今は刀也という名を抱いている。
 空を見上げる刀身は、地を見守る月明かりの下、確かな光彩を映していた。

―――豪州クエスト:第7回個別リプレイへと続く


はい、どうも。
とりあえず、刀也んの昔はこんな感じです。もし、このままで行けたのなら、AFOではどんなに風になってたんでしょうね。

それはそれとして、豪州仲間の恭也くんにお越し頂きました。
刀也ん一人だけではちょっと辛かったのですよ。人と絡んでこそな子なので助かりました。
RGM-179さんに感謝(ぺこり)

今回、非公式で豪州とリンクしてみましたが、第7回での転職の裏事情といった感じです。
精霊さんとの契約も、ある意味では当然だったというべきなのか・・・まあ、そこまで発展するとは思いませんでしたけどね(苦笑)

それでは、お付き合いいただき、ありがとうございました(ぺこり)
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そんなときもあり?こんなときもなく?

2009年04月05日 | AFO小説

雪切・刀也
 どことなく思考がふらつく。
心地のいい日差しの差す自宅の居間で、雪切・刀也は果てしなくごろついていた。
 というのも、先程からもやもやとした感覚が胸の内を占めているからだ。空は晴れていたが気持ちは無関係である。
 倦怠感じみた感覚を弄びつつ、ぼぅっと天井に目を向ける。

「う~ん、暖かくなってきたからか・・・? 毎年、春の当たりは眠くなって困るが」

 どうでもいい思案を片手に上半身を起こしつつ、刀也は欠伸をしようとして・・・噴き出した。


ミリート・アーティア
「お兄ちゃん! 何やってるのさ!?
 まだ寒いんだし、こんなとこで寝てると風邪引いちゃうよ」

 突然、目の前に少女が飛び込んできた。土の色にも似た髪に、特徴的なポニーテールがふわりと踊る。古い幼馴染の少女、ミリート・アーティアだ。
 だが、問題はそこではない。えと、今何を言った? 聞き間違いじゃなければ・・・。

「・・・なぁミリート、お兄ちゃんて、何?」
「だう? 何言ってるの? お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?」
「はい?」

 違和感いっぱい風呂いっぱい。無論、彼女とは兄弟でも何でもなく、序に恋人でもない。ただの幼馴染ってだけだ。
 反射的に二の句を継ごうとするも、それは更なる言葉でつぶされた。

「だって私のお兄ちゃんでしょ? 変なトウヤお兄ちゃん」
「チョットマテ、誰が”私の”だ。誰が。いつからそんな風になったんだよ」
「そんなのずっと前からだよ。第一・・・他人ってわけじゃないんだしね」
「ッ!? 誤解されるような発言するな!!」

 顔を赤らめてみせるミリートに、すかさずそんなツッコミが入る。ふざけているのかどうなのか。理由はどうあれ、性質が悪い。
 もし、これで刀也に妹スキーの傾向があったら話も違うのだろうが、残念ながらそれはない。
 寧ろ、好きなものと言えば動物である。特にわんこ。その根は深く、普段のクールぶった刀也とは真逆、思わず僕っこになってしまう程だ。
 見たら漏れなく引くであろう。

 妙な思考に振り回されつつ、盛大に息を吐く。気づくと先程までの気ダルさはバイバイである。
 それはありがたいにしても、この状況は困る。どうしたもんだろと脳内会議を進めていると、そこに新たな来訪者が現れた。
 薄い茶色の髪を短く揃えた、給仕姿の女の子。愛らしい少女だが、全く見慣れない・・・。

「えと・・・どなた様ですか・・・?」
「主さま、酷いです!? ボクです、涼ですよ! 何時も可愛がってもらってる~!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「やだなぁ、お兄ちゃん。涼ちゃんだって。良く抱っことかしてるでしょ?」

 微妙に不満気に感じるのは気のせいだろうか? いや、それよりもなんて言った?

「・・・・待った。待った待った待った~~~~~~!!!??? 
 涼って、愛犬の涼かっ!? なんでまたこんな姿に」
「素敵な精霊様が願いを聞き届けてくれたんです!」

 ・・・豪州で契約したお姫様が浮かぶが、まぁいい。
 そんなことよりも、今の変な状況の打開の方が大事である。
 てか、この事態を受け入れていいものか、まずそれが怪しい。

「でも、どうして・・・」
「それは、恩返しがしたくて。主様にはお世話になりっぱなしです。せめて、少しでもお返し出来れば、と」
「はぁ・・・。とはいっても・・・これといって現状に不満は・・・うわっ!?」
「ご飯や洗濯等の家事全般にその他もろもろ、夜のお相手も大丈夫です! だからそんなこと言わないでください!!」
「ッ!!? だああっ!? ちょちょちょちょっと落ち着け!?
 というか、夜のお相手とか本気で笑えんて!!!!??」
「大事な人の前に、種族なんて全然関係ありません!!」

 いや、あるだろ!!
 内心で的確なツッコミを入れながらも、突然抱きついてきたそれに思わず焦る。色々と置いてけぼりを食っていたため、思いっきり油断していた。
 ああ、横で唸っている娘のヤスリチックな釣り目が痛い。

「お兄ちゃん!! 何デレデレしてんのさ、みっともない!!」
「してないしてない! てか、どう見りゃそうなる!?」

 しっちゃかめっちゃかである。
 ・・・あ~もう、全く。疲れたように肩を軽く下ろすと、刀也はぽふぽふと頭部を撫で回した。

「涼は涼のままでいいんだよ、変に無理とかしないで。いいね?」
「~~~~~~~~~~~やっぱり主様は大好きです!!」
「へっ? あ、やっ、頬を舐めるなってば!?」

 OK,まずは情景を浮かべてみよう。
 腐っても今は人間の女の子な訳で・・・そしてされているのは男の子。羞恥と混乱、こそばゆさにされるまま、ふと、視線が外を向く。
 その時―――――ピシリ――――と空気が凍った。

 それは畏怖だった。怯えというにはただ易く、脅威というには程足りない。
 異界の魔王ですら平伏せざるを得ないほど熱気に満ち溢れた生き物が、無骨な鈍器を振りかぶってそこにいた。

「・・・・・・・・・・・少し、頭冷やそうか・・・?」
「ああああの、ミリート・・・さん? その、棒きれはなんですか!?」
「見たまんまだよ! お兄ちゃんの浮気者――――っ!!!」

 そもそも浮気じゃねぇえええぇぇぇ!!!!!
 そんな切なる叫びを吐き出す前に、自らの意識が深々と遠のいていくのを実感する刀也くんであった。


―――――ちゅんちゅん―――――


「だああっ!!?? ・・・・・・・夢、か?
 えぇい、とびきりの悪夢だ。くそ、何の因果でまた・・・」

 掛け布団を飛ばして跳ね起きる。昂る身体を無視して息を吐くや、ついで軽く頭を掻く。
 運動直後の様な落ち付かないそれにも似た感覚。しかしそれは、有るモノの所為で急激に醒めさせられてしまった。
 
「ふぁぁ~・・・だう? トウヤくん、どうかしたの・・・?」
「わふん?」

 汗がべったりな素敵なお目覚めに声二つ。
 その横に、ちょこんとしている小悪魔一匹。そして布団の側にはワンコが一匹。
 うん、あれだ。あれだよ。涼は別にいいとして、問題は・・・・。

「・・・なぁミリート。なんで俺の布団で寝てるんだ? しかもしっかりと抱きついて!」
「ああ、それ? だってほら、一緒に寝た方があったかくて好きなんだもん。
 それに、兄妹みたいなものだし。ね、トウヤお兄ちゃん♪」
「わんわん!」
「・・・・・・・・寝ても覚めても・・・振り回されっぱなしだな、ホント・・・」

 日向の眩しさにも似た、にこやかな笑顔で答える彼女。そこには微塵の邪気もない。
 爽やかな朝を愛犬が小気味良く彩る中、刀也は凍った背筋を抱えながら、諦めにも似た息をそれはもう深く吐くのだった。



 はい、どうも。
 あったま悪いお馬鹿な話をやってみたくてこんなんなりました。
 誰かに振り回されるのは刀也くんのデフォルト~。逆に振り回していることは想像できません。

 お気楽な依頼がめっきり無いし、こういうのがあってもいいよね!!(ぁ)
 いやホント。真面目な依頼よりもお馬鹿な方が好きなんですよ。でも、現状はなぁ・・・orz
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その後の

2008年06月01日 | AFO小説

雪切・刀也
 かつての喧騒は薄れ、今なお其処此処に戦の跡があった証が見え隠れする京の都。
 しかし、それでもなお、様々に生き急ぐ人々が行きかう中を見つめつつ、雪切・刀也は馴染みの団子屋で茶をすすっていた。
 あれだけの騒動がありながらもう営業中とは。中々肝の据わった店である。

「藤豊が予想通り動いたか。それも、最高のタイミングで・・・」

 延暦寺に平織、その両者に神皇が仲介を持って行われた秘匿会談。それは無事に行われはすれど、収束に向かうには、あまりにも無理があり過ぎた。
 何があったのかは概ね聞いている。酒呑童子の乱入に両首脳の共倒れ。そして藤豊の介入・・・。

「・・・読み切れないものだな。片方は倒れると思っていたが、まさか両方とは・・・」
「読めたのは藤豊の『最高のタイミングで介入』だけだったね。
 お人好しでなければ、わざわざ『他国の戦争』に真っ先に介入するはずがない。
 どうせなら、平織や延暦寺、その他の諸勢力が疲弊しきったところを突けばいい。あとはどうとでもなる」
「難しいもんだ。 ・・・それはそうと、お疲れ様だ、ミリート。
 鬼の群れを相手に、相応の活躍をしたそうだな」


ミリート・アーティア
 指先についた団子の甘だれを子犬のようにぺろぺろ舐めとりつつ、ポニーテールの少女が笑顔を向けてくる。
 若干はしたないなぁ、と思う反面、冒険者だし、と思えてしまう自分は毒されてるのかと内心、苦笑する。

「お互い様に。そっちも活躍したみたいだね」
「鬼退治をしていたミリートと違い、全く誇る気にはなれないけどな。
 単にむかっ腹が立ってたから動いた、要約するならそんなところだ」

 我ながらその要約はどうなんだろうか? と軽く溜息ののち、残っていた茶を一気にすする。
 鮮やかな苦みが残り、口中の不純物全てがなくなっていくようだ。

「でも、問題はこれからだよ。平織、というか、私個人としては市が心配。
 どうにかしてあげたいけど・・・」

 複雑な顔をするミリート。市とは平織の統括者である市姫のことだ。
 どこをどうしてそんな相手と友人になれたのかは理解不能である。
 が、凶暴な野生の翼竜の背で歌を唄うような規格外娘なのだから、それも当然とも思えるのだから恐ろしい。
 ・・・俺の普段の苦労も窺えるだろう。てか、分かれ。

「・・・別段、家臣というわけでもないのだしな。冒険者は、傭兵のそれと変わりはしない。
 ま、時期に平織から依頼は出る。戦後処理の問題は少なくないんだ」
 
 ぽふぽふと頭を撫でつつ、追加の団子と冷たいお茶を頼む。茶はともかく、団子がいつの間にか切れていたらしい。
 
「だといいんだけどね。待つだけってのは辛いなぁ・・・」
「そうだなぁ・・・でも、とりあえず、俺の分の団子を食うのは勘弁してくれ」

 犯人は素敵にもお隣様らしい。のんびり食ってたと思ったら、この子は・・・。
 しかし、ミリートは悪びれることもなく笑顔で応える。

「え~? いいじゃん、別に。いっぱいあるんだしさ。いわゆる贈り物ということで」
「『あった』の間違いだろ!? てか、いいわけあるか!」

 突きたての餅のようにミリートの頬をみよぉ~んと伸ばす。
 なんかわてわてしてるが、知るか。

「刀也の旦那、お待ちどうさま。お茶に団子を持ってきましたよ」

 そんな馬鹿をやっているところに、店主の三助さんが頼んだものを持ってきてくれた。
 それを会釈と共に受け取る。その横では、ミリートは赤くなった頬を涙目でさすっていた。

「う~、酷いなぁ。私もお団子ぉ!」
「酷いのはお前だ。油断のならない奴め」

 なんか抗議してくるが今回は遠慮しない。全くこの子は・・・。
 しかしそれも見越していたのか、三助さんがミリートの方にも別皿に乗った団子を置いた。

「ダメですよ、旦那。身内は大事にしないと。それに、子供のイタズラに寛容でないと、大人とは言えません」

 穏やかな笑顔を浮かべる店主にそう言われ、ぐぅの音も出ない。その傍らでは、ミリートが満面の笑顔でお礼を口にしている。
 むう、俺もまだまだ未熟だなぁ。
 そんな風に軽く自己反省する中で、とあることを思い出した。とても小さく、しかし大事なことを。
 そして連鎖的に、とあることも思いつく。ふむ、やる価値はあるかな…。

「ミリート、そういえば報酬をまだ貰ってないぞ。あの約束、お願いするよ」
「だう? 約束? ・・・・あー!! そっかそっか。バタバタし過ぎてすっかり忘れてたや。ごめん。ごめん」

 焦って謝るミリート。そんな彼女を見つつ、

「なぁに、気にするな。むしろ、今はそれが都合がいい。
 三助さん、お客さんが増えた方が店にはいいでしょう?」
「はっ? はい、それは確かですが・・・」

 三助さんは何が何やらという表情を浮かべ、逆にミリートはわかったように声を上げた。

「お~、成る程・・・。
 うん、OKだよ。お団子持ってきてくれたし、そのお礼も兼ねてね♪」

 愛用のハンカチで手の汚れを拭うと、慣れた手つきでバックパックから何やら楽器を取り出した。確か、あれはリュートベイルだったか?

「えっ? いや、一体何が始まるんです?」
「まあまあ、見ていてください。いや、聞いて、かな?
 損はありませんよ。あの子の歌と音楽はね」

 まるっきり置いてけぼりの三助さんを宥めつつ、俺はミリートに合図を送る。
 それのお返しなのか、ミリートは茶目っ気たっぷりにウインクを入れた。

「それじゃあ、いくよ。勿論、楽しくね♪」

 初めに優しく弦が弾かれ、そして言霊がそれに乗っては周囲を覆っていく。
 それに惹かれ、或いはその集まりが気になってか周囲の人はだんだんと足を止めていった。
 その伸びやかな明るい声と、心地のいい暖かい演奏・・・。
 苦難があったばかりの自分達をまるで鼓舞するかのように聞こえてくるであろうそれに、人々が耳を傾けていくのが分かる。
 
(これが、ミリートの〝報酬〟か・・・。しかし、本当に良い歌を唄うなぁ・・・)

 弾けて混ざり、歌と演奏で空気さえも変わる。そんなものすら出来るのではと錯覚し、思わず内心で苦笑する。
 やがて、幻想の様なそれが終わると、あたりは急激な歓声に包まれていた。
 それらを笑顔で平然と受け取めると、彼女は俺と三助さんに「どうだったかな?」と、相変わらずなミリート。

「ああ。文句なしだ。ありがとう」
「いや・・・なんというか、凄いですね。私は音楽なんて興味の無かった人間ですが、これは…」
「お~い、団子団子! こんだけいいもの聞かせてもらったのに、買わなきゃ罰が当たる」
「いやぁ、全くだ。というわけで俺にもくれ。頼むぜ、大将!!」

 三助さんが戸惑いながらも称賛を口にする中、それは多くの注文の声で遮られた。急激なそれに、店もてんやわんやと忙しくなる。
 そして隣にいるミリートはミリートで「次はいつやるんだ?」、「また聞かせてくれよ!」と、その反応には驚いているようだ。
 ま、この国では欧州みたいな『歌』という概念が確立されていないから、尚更なんだろうな。
 ふふっ、でも、呼び込みは十分だったみたいだ。それに、多少なりとも活気が出てきている。
 こんなご時世なんだ。だから、こういうときがあってもいいだろう。それに、楽しい方が俺もいい。

 うん。最後の読みは、上手くいったみたいで何よりだ。
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とある兵卒の一刃

2008年05月26日 | AFO小説

雪切・刀也
 まだ日は落ちず、陽光は遮る物がない大地を照らし続けている。
 ふと、京都の方に目をやる。
 そこにあるのは嵐の如き喧噪。延暦寺からの攻撃部隊。そして、それと手を組んだ酒呑童子率いる鉄の御所の鬼たちだ。

 動くか・・・。しかし、防衛戦ではなく侵攻とはな。
 鬼と結託したようだがそれは別に構わない。彼らとて生きているのだし、そういう意味ではそれも一つ。
 まあ、人食いの問題点が残るがな。

 しかし、ヒューマンスレイヤーを嫌うくせに、民草はいくらやられても構わないらしい。
 中々素敵な教義の様だ。

 軽く溜息をつき、そして視線を山の方へと向ける。
 かつてそこにいて、今は攻めるべき場所。
 そう、当初の俺は、延暦寺側にいた。
 理由? 単純に平織が強引だと思ったからだ。それに、その時は無関係の人が多過ぎた。
 前線に出ず、上層部の守りに入っていたのも、交渉役が襲われれば困る、それだけだ。
 「どっちも手前勝手なことだ」と皮肉も言ったがね。

 その上で、当初の目的と思われた防衛は果たした。
 が、逆に攻め込むとは俺にとっても予想外だった。

 そして今、俺は平織側にいる。
 理由はいくつかある。第一に京都侵攻、第二にクリエイトアンデッドさえ容認する延暦寺への不信。
 最後の第三に、ヒューマンスレイヤーのことだ。対人戦闘前提で、何故それを忌み嫌う?
 しかも、冒険者の中にもそれを嫌うのがいるらしい。
 勿論、それが人情だろうとは理解できる。同胞殺しの技術に嫌悪感が沸くのも万人の道理だ。

 だが、断る。
 俺には納得出来ない。そもそも、散々スレイヤーを振り回していたのは冒険者ではなかったのか? 
 他種族に対しての有利はよく、自分たちは特別だとでも? 
 そして、通常兵器での殺生なら許容する?

 そんな思案の中、刀也の中でとある場所が浮かび上がった。
 日々、命懸けの戦いが繰り広げられるオーストラリアの大地。
 そこは、人を食らう鬼さえ容易く平らげるような恐竜達が跋扈する、野生の王国。
 他所では絶対にあり得ない圧倒的な世界を目の当たりにし、肌で感じ、その旅路で得たもの・・・。
 あの場所の掟に比べれば、なんと醜さ極まりないことか。

 偽善でもなく、詭弁ですらない。これは、完全な傲慢だ。
 だから・・・。


ミリート・アーティア
「難しい顔で、何を考えてるの?」

 何時の間にやら考え込んで思案にふけっていたらしい。目の前の古い幼馴染にすら気付かなかったとは…。
 愛らしいポニーテールの少女。それが天然の無邪気さと合わさり、一層子供らしさを醸し出している。
 ミリート・アーティア。それが彼女の名前である。

「くだらないことだ。一兵卒の愚痴に近い」

 だ~う~? と首をかしげるミリート。「?」マークが見えるようだ。
 苦笑しながら俺はそんな彼女の頭を撫でた。それをくすぐったそうに受け入れるミリート。

「でも、おっかない顔してたよ? トウヤくんも深呼吸した方がいいのかも。
 みんな、どこもかしこもそんな感じ。おっかなくて好きじゃないや」
「そっか・・・。そうだな、少し気を抜いたほうがいいのかもしれない」

 相変わらず感性が吹っ飛んでるなぁ、と感心しつつも、言われたとおり、素直に深呼吸を行う。
 心なしか何かのとっかかりじみたものが失せ、少し軽くなったかもしれない。

「ミリートはどうするつもりだ? お前の性格から延暦寺はないし、人間相手も柄じゃないだろう。
 平織か、或いは対鬼といったところか・・・」
「・・・当たりだよ。私は対鬼で動くつもり。
 自分の出来ることを私なりに考えたけど、尾張の方に出向く気はないの。その前に、もう決着はついてる筈だから。 ・・・だから、戦うよ」

 それに俺は「そうか」と答え、彼女の顔を見た。
 迷いのない強い眼に、子供特有のまっすぐな意思が感じられる。
 そしてその肩には、愛らしい華奢な身体には不釣り合いとしか言えない長弓が、今か今かと出番を待つかのように雄々しさを称えて掛けられていた。

 -強弓「十人張」-
 放てば穿ち、射れば撃ち落とす。
 現在、出回っている弓の中でも、紛れもなく最大級の威力を誇る弓だ。

「いやはや、敵も可哀想に・・・。第一級アーチャー様が御相手では、どうしようも」

 もし今の自分の顔を鏡で見れば、苦笑いが見えるのだろう。
 ぱっと見、ミリートは其処らにいる少女にしか見えない。が、その紡ぎ出す歌声は極上の酒の様に甘く、弓の腕も桁外れというとんでも少女だ。
 仮に俺が相手をしても、勝てるかどうか甚だ疑問である。てか、無理。確実に負ける。
 この恐るべきスナイパーの標的に、心の底から同情しよう。

「・・・俺は平織だ。が、対冒険者に回る。元々個別主義の強い冒険者だ。誰がどう思い、どう動くのかは個々の赴くまま。
 今回俺は、納得のいくように動く。それだけだ」
「ん、そっか。 ・・・ちゃんと戻ってきてよ? 新作の歌、聞いてもらう人がいなくなると困るんだから」
「そちらこそな。ミリートの歌は、嫌いじゃない」

 言葉を発し、両者共にしばしの沈黙。
 そして、同時に笑い声が響いた。

「あはははははっ! ホぉ~ント、つんけんしてて相変わらずなんだから。
 OKぇ、ミリート特製の歌で魂も魄も全部あっためてあげるよ! 覚悟しときなよ?」
「ははは! 自分も危険なのに、こんな時でさえも人の心配とはな! 
 諒解だ。意地でも聞かせてもらう! それが何よりの報酬だ」
「ふふ~、過剰報酬かもね、それじゃあさ♪」
「なぁに、見合う分だけ動いてみせるよ。それじゃあ、そろそろ・・・」

 ビャァァァァン、軽く弦が鳴らされる。
 多分、笑っているのだろう。俺も、納刀術で剣を軽く弾かせた。

「行くよ!」
「諒解だ」

 俺もミリートも、互いに有るべき場所へと動き出す。
 この先の結果がどうなるかはわからない。所詮、ただの一兵卒であり、権力者ではない。大勢に影響など与えようはずもない。
 だが、今出来ること、そして自分の思うことは大事にしたい。そう思う・・・。
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