『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1138

2017-10-11 09:55:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あの新艇を求めた価格ね。集散所が我々に提示した価格は、割安感があり妥当であると考えている。2本帆柱、そして、2段帆と跳びぬけた発想で造られている。気に入ったね。次に考えたのは、どのような人がどのような処で造っているのか。どのような人らがその船に携わっているのかを知って、購入の意を固めたといっていいな。次に考えたのが価格の妥当性である。船の大きさ、そして、艤装、建造用材、造作金具類、根本的な品質を確かめ、出来あがった船本体の品質、操船性能を検討して、新艇を買いとったわけだ。添付サービスもなんだが、そのことに対する君らの対応が気に入った。いい買い物をしたと満足している』
 『そのように伺えば、テムノス殿のところへ届けた喜びを覚えます。ありがとうございます』
 『それからだが、水夫頭のテルバスの報告によるとだな、この一か月くらいの間に新艇を見に来た者が、四、五人いるそうだ。誰であるかについては、不明である。イリオネス殿、それくらいだが』
 『そうですか、よく解りました。ありがとうございます。この件についてこれだけ聴かせていただければ十分です。クノッソスを基点にして人の動きに活性があるのですな』
 『そういった面はあるな。キドニアとは少々違うな』
 『ところで、テムノス殿、クレタ島において造船の仕事は、これからどのように展開していくのか、私らでは測りかねています。それと私らでは船舶の修理、改造のほうの仕事をしていこうかと考えています。テムノス殿の立場から見て、そのあたりをどのように考えられるか。意見をいただければ幸いです』
 『イリオネス殿、なかなかむつかしいことを聞かれる。難儀な問いかけですな』
 『そうですかな。私らこのクレタに住みついて、土地の人らの恩情にすがって生計を立てている次第です。見通しを持たないと明日にとても不安を感じているといった状態です』
 『いやあ~、そうですかな。そうでもないのではないかと私の目には見えるのですが。皆さんはとてもよくやっていられる。集散所のハニタス殿も言っています』
 『そのように見えますか。上に立つ者として見たところ、あちこちに不安材料が目につきます』
 『それは、そうでしょう。それは上に立つ者の宿命でもありますよ』
 『そのようなものですかな』
 『そうですな、今から振り返ってみると昔のことですが、このクレタ島が造船業で大いに繁忙を極めた時代があったと聞いています』
 そのように言って、テムノスは、遠くを見つめる表情をして、イリオネスと目を合わせた。