『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1139

　イリオネスは、テムノスの話の方向性を想像する。クレタ島の造船に関する歴史になるかなと感じたが、そうではなかった。
　彼は、クレタにおける造船業の現状をリアルに語り、その将来をテムノスなりのスタンスで話した。
　『いや、これは私の想像であって、その姿、形の実像を話したのではない。そのような状況の中で集散所の果たす役割が大きなっていくであろう』と話を結んだ。
　『そのことを念頭において修理、改造といった業務は、サービス部門としてやっていかれることが望ましいのではないかな』と話した。
　『よく解りました』
　『そのような業務をやっているとわかれば、客は安心して、新しい船の発注をするのではないかと考えますな』
　テムノスの話が的を射ているとイリオネスは感じとっている。
　『テムノス殿から話をうかがって、事業の展開に開眼しました。いい話をいただきました。ありがとうございました。私らは、昼前にはレテムノンの港を出航し、次の訪問先であるイラクリオンのエドモン浜頭殿を訪ね、明日にはマリアの集散所へまいります。明後日にはマリア集散所の近傍の海にて新艇、試作戦闘艇の試乗会、二艇の展示を行う予定にしています』
　『何っ！イラクリオンのエドモン浜頭殿を知っているのか。イリオネス殿それは心強いぞ！お前もなかなかの強運の持ち主だな。彼は、お前と一緒にマリアへ一緒に行くというかもしれない。俺もエドモン浜頭とは久しく会っていない、積もる話もある。イリオネス！俺を乗せていけ！エドモンがマリアへ行くと言えば、俺もマリアへ行く。お前の仕事を応援してやる。マリアへ久々に出かける、お前らが建造している新しい船を吟味するチャンスでもある。準備出来次第、すぐ出航する。いいな！』
　イリオネスは、テムノスの言いだしに仰天した。
　『俺は、チョット打ち合わせをして、支度を整えて浜へ行く、即、出航だ！イラクリオンまでゆっくりで三刻くらいかかる。聞きたいことがあれば船の上で聞け。以上だ』
　テムノスが口走る、あわただしい、イリオネスら二人は急いでテムノスの屋敷を辞去した。
　二人は転がるようにして浜への道をたどる。
　『オキテス、出航準備よろしく頼む！二艇とも点検の上、出航準備はできている筈だ。スダヌスには俺が話す』
　『解りました。話が急展開しましたね』
　二人が浜へ戻ってくる、二人の表情を見て、スダヌスが近づいてくる。
　『イリオネス、どうした？えらく急いでるではないか』
　『テムノス殿がな、イラクリオンへ行くということになった。即刻、出航しようということになって急いで戻ったというわけだ』
　『どのような風の吹き回しだ？まあ～、いい、船の上で話をしよう』
　オキテスは、ギアスとゴッカスを呼び寄せる、二人に二艇の状況を確かめた。