『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1143

2017-10-18 06:46:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスがテムノスに声をかける。
 『テムノス浜頭、あれですな、風景を見て到達地点を知り、行程とそこに到った所要時間を考えると、この艇はかなり速い速度で航走しています』
 『ほう、そうか。速いことは体感で分かってはいるが、どれくらいかについては定かではない。スダヌス、計ってくれているのか。それはありがたい』
 『レテムノンの港を出てから、今、イラクリオンへの中間地点あたりを過ぎようとしています。通常の船足なら二刻弱かかるところですが、一刻半弱くらいで通過しようとしています』
 『おう、それだったら、少々速いと言えるな』
 『艇首といいますか、船首の衝角構造で波割りの様子が少々変わっているという感じです』
 『波割りの様子が違う?!お前、聴き捨てならんことを言うな。衝角構造で波割りに変化を生じている?考えられない。航走行程と目標地点に到達する所要時間、これは動かしがたい結果だからな』
 『そうですね』
 試作戦闘艇は、艇に設けた衝角構造が、艇の重量、乗員の重量、そして、喫水の関係で、現代の各種船舶に採用されている『バルバス バウ』的効果を醸し出していたのではないかと推考される。
 『バルバス バウ』は、1900年代初頭に案出された喫水以下に位置する船首の構造である。
 『なあ~、スダヌス、このあたりからレガリアの岬あたりまでの沿岸の景色だが、変化がないな』
 『そうですな。人が棲んでいないと景色が変わらんですね』
 二人はうなずき合う、会話が止まる、風景を見ながら、テムノスは脳漿をしぼっている、彼が声をかけてきた。
 『スダヌス、次の論点について話し合おう』
 『はい、始めてください』
 『今、我々が乗っているこの船だが、売り物としての市場性はどのようなものだと考える?余談だが、こうして船の舵を操りながら、お前と話し合う、久しぶりだな』
 『そうです、振り返ると若かりし頃のことです』
 『こうして、舵を取りながらいると、この大きさの船としては乗り心地のいい船だな』
 『今日の浜頭、いつもの浜頭とは、少々雰囲気が違います。話される言葉、一語一語が冴えています!』
 『ほう、そうか』
 『語られる言葉が核心をついて、鋭い!振り返ると、あのころから時間が経ちました、世の中も変わりました』
 『おい!昔を懐かしんでいるな。次の論点の意見交換をやる』
 『ハイハイ、あの頃も船上で討論をやりました。テムノス浜頭は私の大親分です。今も変わりませんが』
 『次の討議の議題は、クレタにおける船舶の市場がどのように変わっていくかだ。それによって、この二艇が船を使用する者らに受け入れられるかを考えろ!』