『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  615

2015-09-18 05:39:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝が来る来る朝が来る。ニューキドニアの浜に朝が来た。『おはよう』の朝の挨拶が飛び交うにはちと早い時候である。
 『おう、おはよう!』同時に交わした挨拶言葉。『おう、オキテス、お前の今日の予定は?』
 『今日の俺か。朝の第1便でキドニアに行く。ガリダと話がある、彼奴を新艇に乗せてやらなきゃならん。それに決済の件について話を通しておきたい。そのあたりを円滑にとの思いだ』
 『判った』
 『そのあと、試乗会を手伝う。それでいいか』
 『おう、それでいいとも』
 二人は朝行事を済ませた。オキテスは、姿を見せたドックスと打ち合わせている。アヱネアスとイリオネスの二人が揃って姿を見せる。パリヌルスが近づき今日の予定を伝える。オロンテスとも打ち合わせを終える。ヘルメスはいつものメンバー、パリヌルス、オキテスと従卒一人を乗せてニューキドニアの浜を離れてキドニアに向かう。パリヌルスら三人は、事業の進展計画におけるスタートダッシュを心がけて行動に移っている。
 パリヌルスは、事業の展開に伴う今日の計画に遺漏はないか、気を配ってチエックしていた。
 今日の試乗会も勝負どころのひとつである。彼は緊張を緩めなかった。
 彼は、帆張りの件をどうするかを考えていた。
 試乗会での帆張りはニュータイプの帆張りで実行し、従来タイプの帆張りも標準化して備え、帆張りを2方式にしている方策を伝えることにした。パリヌルスは、ヘルメスの艇上において、オキテス、オロンテスの二人と事細かく打ち合わせた。
 スダヌスへの連絡はオロンテスに任せ、オキテスの段取りを聞いて、昼にはキドニアの船だまりに来てくれるよう要請した。パリヌルスは、キドニアの海の状態を把握して試乗会の実行に対応する予行をすることにしていることを説明した。三人はうなずく。
 ヘルメスは、キドニアの船だまりに着いた。
 オロンテスは、集散所へと向かう、オキテスは、従卒を従えてガリダの館へと向かう、パリヌルスは、ギアスと打ち合わせて試乗会に対応する予行に取り掛かった。
 彼は、ギアスと試乗会に関して打ち合わせる。ギアスは、これまでの経験で試乗会の要領が解っている。パリヌルスにそのことを伝えて、船だまりからヘルメスを外洋へ漕ぎ出した。 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  614

2015-09-17 06:19:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが口を開く。
 『そうか、第三者の目で見た評価がそういうことか。統領、如何がですか?』
 イリオネスは、アヱネアスが彼らから受けた印象を問うた。
 『それを素直に受け取れば、重畳というところだ。彼らの視察は、好意的であったと理解していいとも思う。だがだ、第三者の褒め言葉を聞いて、うぬぼれてはいけない。『脚下照顧』であれだ。気を引き締めていくように心がけてくれ。オキテス、建造がスタートして、時日は経っていないが、状況はどのように推移ている?』
 一同は、真剣な目でオキテスの口元を見つめた。
 『はい、時日は経っていませんが順調と言えます。ガリダ方より5人の製材担当者が来ていますが、彼らを要請したことは、間違いではなかったと推察されます。いい結果に事が進んでいく、そののような感じです。ドックスの指示も適切であり、工程に基づいて仕上がり具合もいいと言えます』
 『そうか、さい先がいいように思えるな。工程と仕上がり具合を照合して、いいモノづくりだ。心せよだ』
 『解りました』
 『軍団長、事が動き始めている。その徴候を見極めて、受けて起て、そして、いい方向へと仕掛けていく。万事において、不明は合議で解決の道を探り、事と対決して合理的に事を運ぶ。好事には、魔が手を伸ばしてくる、それらをいち早く察知、排除して事を成し遂げるように進んでくれ。順調であれば、あったで、兜のひもを結びなおして事に当たってほしい』
 『解りました。両人、統領の言われたことを肝に銘じて、業務、仕事の遂行をやり遂げてくれ。統領の想いは、お前らに仕事の失敗をさせたくないとの親心だ。解ったな!いいな!』と詰めを打った。
 『統領は、優しい思いやりを厳しい言葉で言われる。軍団長は、仕事の厳しさをやさしい言葉で俺らに言われる。どうかな?』
 と言って、パリヌルスとオキテスは、アヱネアスとイリオネスの目をじい~っと交互に見つめた。
 『お前ら、何を言う。時と場合によって、両方を使い分けている。解っているのか、お前らは、、、』
 『解っています。総じて、そのようです』
 『ハッハッハ!』『ハッハッハ!』
 四人は大声をあげて笑った。
 パリヌルスが感想を言う。
 『打ち合わせを厳しい表情でしめる。おおらかな笑いでしめる。いつも後者でしめたいものです』
 『お前、うまく言う。いつも、そうありたいと思っている』
 イリオネスが言う。一同がうなずいて場を閉じた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  613

2015-09-16 05:56:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~、そうですか、なんと試乗会ですか。いいですな。明日は、私もテミトスも手すきです。所長も一緒して乗せていただきます。それはそれは、価格決めの参考になるというものです。了解しました。。今日は、こちらに伺って得ることがたくさんありました。いろいろとありがとうございました。そして、昼食まで馳走になり礼の申し上げようがありません』
 『いえいえ、その様に気を使わないでください』
 『それにしても馳走になりました。食したあの塩漬けの魚は格別においしかった』
 『それは、よかった』
 『アヱネアス殿、こう申し上げて何ですが、新艇建造の用材の事です。用材の良し悪しが船の出来上がりを左右します。命と言って過言ではありません。そして、用材のいいところを生かして造り上げる。ガリダもそのあたりに気を配って、用材を準備し、こちらへ納めたと考えられます。良材です。船棟梁にも会いました。いい船ができます。先が楽しみです。クレタにおける造船の歴史もあり、島の東部地区では、船を造る良材が枯渇してしまっています。アヱネアス統領殿、これを足掛かりにされて事業を起ち上げてください。私どもも、その期待で胸が膨らみます』
 ハニタスは、言葉を選んで述べた。
 『ハニタス殿、その様に言ってくれてありがとう。力を尽くして、いい新艇を造ります。期待してください。力添えをよろしく頼みます』
 『解りました。努めてまいります』
 ハニタスは、イリオネスに体を向けて話しかけた。
 『イリオネス軍団長殿、今日は、いろいろとありがとうございました。昼を馳走になり、そのうえ、船の漕ぎかたたちまでに配慮をいただき誠にありがとうございました。帰途に就く頃合いとなりました。これにて失礼いたします』
 集散所からの一行は浜をあとにした。オロンテスはキドニア行き第2便でキドニアに向かった。
 『おう、オキテス、ちょっと打ち合わせよう。四人でやる』
 『判りました』
 『場は、ここでやる。お前ら腰を下ろせ。統領、いいですね』
 イリオネスが声をかける。
 『おうっ!』
 『オキテス、彼らは、視察の結果についてどのように言っていた?』
 『はい、用材の質については良材であり、造船に適材であるとのことです。用材量については、5艇建造に充分であると言っていました。まず、用材に関しては安心といったところです。建造の場に関しては、なかなか良くできているとの見解を述べていました』
 『ほう、そうか。彼らは、そのように言っているか』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  612

2015-09-15 06:06:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ハニタスは一拍の間をおいて、オキテスに話しかけた。
 『オキテス殿、一応、予定した作業が終わりました。イリオネス軍団長に報告いたします。明後日の会合の件についても打ち合わせておきたい、それもありますのでご両人同席してください。行きましょう』
 ハニタスは、報告と用件をイリオネスに伝えるべく、アヱネアスとイリオネスのいる場に戻った。ハニタスが丁寧な話し方で両人に話した。
 『お~お、ハニタス殿、今日の用件は終わりましたかな』
 『はい、終えました。オキテス殿、オロンテス殿、ご両人の案内で用件を済ませました。いや、整った新艇建造の場です。そこで作業をする人たちの姿を見て、これならいいものができると感じました。我々もこの仕事に自信をもって取り組めるというものです。ありだとうございました。この仕事の件について話をいただいたことに心から礼を申し上げます。ありがとうございます』
 ハニタスはそのように言って、用件の報告を済ませた。
 『そうですか。ハニタス殿から、その様に伺って安心いたしました。宜しく願います。ところで二、三、打ち合わせもあります。頃合いは少々早いですが、昼食を準備しています。こちらの席についてください』
 『それはそれは、ありがとうございます。遠慮せずに馳走になります』
 一同が昼食の席に着いた。アヱネアスが挨拶の言葉を述べる。
 『ハニタス殿、そして、随行のお二人、今日はご苦労でした。パンは我が方の工房で焼いたもの、魚も我らが漁で獲り調理したものです、賞味してください。オロンテス、酒を頼む』
 オロンテスは一同の杯に酒を注ぐ、イリオネスが乾杯を告げる、一同は杯の酒を飲み干し、食事に取り掛かった。
 集散所の一同が驚く、パンには馴染みがある、焼いた魚の味に驚いた。大魚の塩漬けである。彼らはそのうまさに驚いた。
 『いやあ~、これはうまい!うまいですな』
 オロンテスが相づちを打つ、
 『そうですか、それはよかった』
 イリオネスが話しかける。
 『ハニタス殿、話したいことは二件です』
 『聞きましょう、話してください』
 『一つは、明後日の価格決め会合の件です。当方からは今日、案内役を務めたオキテスとオロンテスの二人が担当として出席します。もう一件の方ですが、関係者の方を招いて、明日の午後、キドニアにおいて新艇の試乗会を行います。是非、皆さんの試乗をお願いしたい。以上です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  611

2015-09-14 04:57:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『用材を納入したガリダの方もなかなかです。建造が予定されている5船分に充分に対応していますね。これだけあれば、不足するようなことはないと思われます。充分です』
 ハニタスは、テミトスからの報告を受けてオキテスに話しかけた。
 『まだ、帆柱用のの用材が納入されていませんな』
 『そうです。帆柱用のレバノン杉の納入は、この後になります』
 『解りました』
 用材に関する調査は終了した。
 『オキテス殿にオロンテス殿、用材に関する調査は終わりました。少しばかり時間をもらって、整理します。それを終えて、次に建造の場を見せていただきます』
 集散所の三人は、用材の調査結果について、まとめの話し合いをして頷き合った。彼らは調査結果を確認した。オキテスは彼らの調査が手ぬかりなく行われたことを確認した。
 『オキテス殿、調査結果のまとめが終わりました。今日一番の重要な用件なのです。これについて詳しく知っていなければ、ガリダ方との折衝がうまくいきません。用材の材質も上等です。用材量も充分であると思われます。質、量とも申し分がありません。これで造船の原価の算出もできるということです。任せてください』
 『いわれる通りです。理解しています』
 『次に行きましょう』
 彼らは新艇建造の場へと足を向けた。
 一行は、建造の場を見て廻った。彼らは目を見張った。整っている建造の場、作業に携わる者たちの姿も目にした。ハニタスが口を開く。
 『オキテス殿にオロンテス殿、建造の場はよく整っていますな。これなら、いい船ができます。我々もこれまで幾多の造船の現場を見てきていますが、このように整った現場を目にしたのははじめてです。これならいい船が造れる、間違いなしです』
 彼らは作業風景に見入っている。
 『今日は、いい光景を見せていただきました。作業する方たちも懸命にやっています。とてもとてもいい風景です』
 ハニタスのこの言葉に、随行している二人も深くうなずいている。
 『ありがとうございました』
 ハニタスは、オキテスの目を見つめて丁寧に礼を述べた。そこへドックスが姿を見せた。
 『お~お、ハニタス殿、紹介します。この者が新艇の建造を指揮している船棟梁のドックスです』
 『そうですか。私は、このたび建造される新艇のトレードの手伝いをするキドニアの集散所のハニタスです。よろしく』
 ハニタスは、ドックスを見つめて手をさしだした。その手を握るドックス、二人は互いの手を固く握り合った。
 『今日は新艇建造の場を見せていただきました。これなら、いい新艇が出来あがること間違いなしです。私たちも自信をもって、この仕事ができるというものです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  610

2015-09-11 06:12:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 このニューキドニアの地にアヱネアスが腰を落ち着けて以来のハニタスとの交流である。見つめ合って、二人は握手を交わした。
 『先日、イリオネス軍団長より新艇建造の詳細を承りました。貴方がたがそのような技術を持っておられることを知った次第です。まさに快挙と言えます。クレタには造船に関する歴史があります。いろいろの曲折を経て今に到っています。それについては、これからのちに話す機会もあると思います。いずれ落ち着いた折に話したいと思います。とりあえず、今日は、ここにおもむいた用件を済ませたいと考えています。よろしくお願いします』
 ハニタスは言葉を選んでアヱネアスに語りかけた。彼は、改めて、イリオネスに体を向けた。
 『いやあ~、イリオネス軍団長殿、先日は、どうも、私どもとあなた方の新事業、造船の件でわざわざ集散所に見えられた。ありがとうございました。私どもとして事情を詳しく知っておきたいと、今日、こちらへへまかり越しました。よろしくお願いします』
 『判りました。我が方もクレタにおけるこの種の件については、不明としていることが多々あります。今後の指導をよろしく願います』
 『解りました。早々ですが、作業にかかりたいと思います。案内いただけますかな』
 『解りました。オキテス隊長とオロンテス隊長、ハニタス殿と一行を新艇建造の場へ案内してくれ』
 『今日は、足労をかけましたな。オキテス隊長が皆さんを案内します。行きましょう』
 オロンテスはそのように言って、オキテスに引き継いだ。
 『オキテス隊長殿、私どもは、まず、新艇建造の用材を見たいと思います』
 『では、最初にそちらへ案内します』
 『お願いします』
 オキテスは一行を用材の場へと案内した。
 第一次の製材を終えている用材が浜の一画に積まれている。
 ハニタスら三人は、用材の場に来て、材質の調査に取り掛かった。
 『おう、なかなか上質ではないか』
 『おう、上等だ。これならいい』
 『用材の材質は申し分がない。吟味してある。これはよしだ。テミトス、用材の量を調べてくれ』
 ハニタスから指示が出る。テミトスは、指示に従って、用材の量のチエック作業を行った。彼は、用材の量を入念に計った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  609

2015-09-10 06:41:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 集散所の新艇トレード担当者らの来訪の朝が明けた。パリヌルスらは、朝の浜で顔を合わせた。
 『おう、おはよう』『おはよう』で始まる。平常の朝と何ら変わっているところがない。
 パリヌルスは、ギアスと昨夕の間に試乗会の件についての打ち合わせを終えていた。
 『なあ~オキテス、考えてみろや、今の俺たちは、歩んだことのない道を歩んでいる。坂もある、分かれ道にも差し掛かる、そうかと思えば、途切れもする。石ころが転がっていれば木の根も地表に出て、行く手の邪魔をする、躓かせる。うす暗い森の闇を抜けると、視界が広がる、明るい青空、たなびく雲、明日が見えてくる』
 『そうだな。お前、結構、繊細でナイーブなところがあるのだな』
 『進んでいく先に結果が見え隠れする、思わず叫びたい衝動が来る、楽しいかといえばそうでもないが、生きている実感を感じる。そんなとき身体に震えがくる。オキテス、力を合わせて歩んでいこうぜ』
 『おう、判っている』
 二人は、互いの心中を確かめた。
 アヱネアスもイリオネスも姿を見せた。パリヌルスら二人を見て朝の挨拶を交わす。
 『おう、パリッにオキテス、おはよう。お前ら朝行事終えたのか』
 『はい、おはようございます。終えました』
 『おう、今日、集散所から人が来るのだな。予定、段取りはどんな具合になっている?』
 『今日、集散所から新艇トレード担当者らが来ます。到着次第、統領と軍団長を呼びに行きます』
 『ほう、そうしてくれるか、了解した』と答えて、海に足を入れていく。
 彼らは、朝めしを終える、少々の間を過ごす、業務開始の時が訪れた。
 各部署が朝礼と思しき礼を交わして業務がスタートしていく、浜がいちどきに活性を呈する。一艘の船が漕走で浜を目指してくる。
 見張りが目にとめる、伝令が走る、パリヌルスとオキテスが渚に立つ、オロンテスも並んで立った。統領と軍団長に伝令を走らせる。彼らは来訪者を迎えた。
 彼らは、海の浅瀬に降りる、浜に向かって歩む、オロンテスが前へ進み出て一行を迎えた。
 『お~お、ハニタス殿、ようこそ、おいで下さった。待っていました。どうぞこちらへ』と案内して、パリヌルスとオキテスを紹介した。
 一行は、ハニタスとテミトス、もう一人随行者がいた。パリヌルスらとハニタスらも互いに名乗りながら、自己紹介して『よろしく』と顔合わせの握手を交わした。
 統領と軍団長が姿を見せた。オロンテスが紹介の労につとめた。
 統領がハニタスに声をかけた。
 『おう、ハニタス殿、久しぶりです、達者でしたかな。その節には、大変に世話になりましたな、如何です?あのころから時を経て浜も変わりました』
 『いやあ~、見て、驚いています。あれから、この浜がこのように変わるとは思いもよらないことです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  608

2015-09-09 06:10:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとドックスは、新艇建造の場及び工具類、消耗品類の入念チエックを終えた。
 『おう、ドックス、全てについて満点だ。集散所の者たちが何を言おうと落ち度なく整っている。自信をもって新艇の建造を進めてくれ。これで終了だ』
 『判りました』
 『俺はパリヌルスと一緒にいる。何かあれば連絡してくれ』
 オキテスは、パリヌルスのいるところへと歩を運んだ。
 パリヌルスとイリオネスは何事かを話している。彼は二人の傍らに立つ。会話は『おう!』で始まった。
 『おう、オキテス、ご苦労』
 イリオネスが声をかける。
 『建造の場のチエックが終わったのか』
 『はい、今、終えたところです』
 『結果は?』
 『はい。全てが整っています。何の懸念もありません。建造の場は、新艇を生み出すのに満足状態です。工具類のそろえ、消耗品類のそろえも万全です。申し分のない状態です。ドックスはよくやってくれています』
 『そうか』
 『あのように万全の状態であるとはと、その状態に感心しています。彼の許で作業に携わっている者たちの作業に取り組む姿勢も、軍団長の言われる『脚下照顧』『確かな一歩で前へ』の気構えで律されています』
 『ほう、そうか、それはよかった。今、パリヌルスに新艇をどのようにして知ってもらうかについて話し合っていたところだ』
 彼は、半拍の間をとって、話を継いだ。
 『パリヌルス、試乗会の開催について、もう一度、最初から話してくれ。オキテスもそれを知って、会合に参加すれば心強いというものだ』
 『判りました。何事も最初の打ち込みで決める。オキテス、場に挑む剣心だ。第一回試乗会を明後日、会合の前日にキドニアで開催する。明日、そのことを集散所の担当者に伝える』
 『急遽実行か、それはいい』
 『試乗会に招く者は、関係者一同とそれに準ずる者だ。それについて、お前はどのように考える?』
 『何ッ!明後日、会合の前日にだと。それは願ってもないタイミングだ。やってくれるのか、それは彼らに衝撃を与えること間違いなしだな。その効果はでっかい!彼らの心をわしづかみにしてくれ』
 オキテスは、諸手をあげて賛成した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  607

2015-09-08 06:09:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは何事にも真剣であり、身命を賭して事にあたった。
 昼めしを終えたオキテスは、ドックスと共に新艇建造の場のチエックを入念に行った。
 新艇5艇の建造の場は、充分な条件で整っている。工具等のそろえにも遺漏はないはずである。釘等消耗品の類のそろえにも申し分がなかった。
 新艇の付加価値構造の創出にも充分と言える条件が整っている。そのうえにドックス以下、各現場の責任者、現場で作業する者たちのモノづくりの気構えができている。
 建造に携わる者たちは、『脚下照顧』と『確かな一歩で前へ』の思慮で行動が律されていた。
 ドックスの船棟梁としての場の構築、備品等のそろえにも非の打ちどころがない。作業の携わる者たちの動きにもそつがないことを確かめたオキテスがドックスに声をかけた。
 『ドックス!ご苦労、完璧だ。申し分がない。そのうえ、お前の新艇建造に関するモノづくりの精神だ。お前という奴は、大した奴だ。この俺は、ガヤガヤ言うだけでお前には及ばん。新艇を完成させてくれ!何でも言ってくれ、それについてはできるだけの事をする』
 オキテスは、ドックスの手を力いっぱいの気を込めて握った。
 『オキテス隊長、その様にほめていただいて痛み入ります。日々、精進に心がけ、いい新艇を完成させます。これだけの新艇建造の場、その他を整えてくださった統領、軍団長、そして、貴方がた一同、この私を新艇建造の任に就かせていただいて、ありがとうございます。感謝と感激です』
 目を潤ませてドックスはオキテスに告げた。
 『ドックス、そんなに感激しなくてもよい。お前という者の持っている資質だ。俺たちも思っている、お前がいてこそ、出来ることだと、感謝するのは俺たちの方だ』
 新艇建造事業の明日の見通しが明るくなりつつある。
 オキテスのまぶたの裏には、日に日にカタチができていく新艇の姿がくっきりと描かれた。
 3日後のカタチが10日後にはこのカタチにと、そして、1か月後に、2カ月後にと、3か月後には、海上に浮かぶ新艇のその雄姿がイメージできた。3カ月の日々をかけて出来あがった新艇が見えた。
 艇上のキャプテンと漕ぎかたたちの声が耳に届き、その姿がまぶたに映じていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  606

2015-09-07 05:19:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスが口を開き声を出す。
 『これで懸案の解らないことだらけの新艇の価格決めの目途がついたというものだ』
 オキテスの表情に生来の明るさがよみがえってきていた。
 彼らにとって決断次元の高いと思われる決断が瞬時といってもいい短い時間で決まった。狂いのない即刻の決断が事業のサクセスを約していた。
 彼らに訪れたのはふしぎな感動の波動と衝動である。「そうせずにはいられない」といった衝動が握手という行動に駆り立てた。五人が手を握り合った。打ち合わせの終結に握手を交わす、強い想いに血が通う、一同に興奮が渦巻いた。
 彼らは決めるべきことを決めて散会した。
 『おう、オキテスにオロンテス、昼めしまでに少々間がある。打ち合わせの事をまとめておきたい。先ず、明日の事だ。用材の事、建造の場の事だが、我々三人が立ち会う、俺はそのように段取りしている。オロンテス、お前の予定が解っていない』
 『俺の明日の予定はだ、アレテスのキドニア行き第2便で集散所に行く、それまで、彼らの来訪に立ち会う予定にしている』
 『解った。顔つなぎの事もある、オロンテス、それで頼む』
 頷くオキテス。『おう、判った』と答えるオロンテス。三人の気持ちがひとつに集束された。
 浜にアレテスの舟艇が着いた。
 『では、俺は行ってくる』と行ってオロンテスはアレテスの舟艇に乗り込んだ。二人はこれを見送った。
 『おう、パリヌルス、昼めしにしよう』
 二人はそれぞれの持ち場へと向かった。
 パリヌルスは思案した。試乗会をいつ、どこで、どのようにやろうかと思案した。
 まず関係者連を招いて、試乗会をしなければと考えた。それも第一回の価格決め会合を控えての急務であると条件づけた。彼は決めた。
 関係者を招いての試乗会は、第一回価格決め会合の前日とした。明後日の実行である。帆装は新しい帆でやると決めた。実行内容についても決めた。
 告知は、明日来訪するハニタスらに伝える、ギアスとの打ち合わせは今夕に行う、胸に熱い想いを煮えたぎらせて、試乗する者たちに伝える内容を練り上げて、実行計画のカタチを描いた。
 彼は、新艇の優れた性能、簡単操作に重きをおき、新しい櫂のカタチをも伝えることにした。