マーラー:リュッケルトによる5つの歌曲
ワーグナー:ヴェーゼンドンクによる5つの歌曲、トリスタンとイゾルデ「前奏曲と愛の死」
ソプラノ:フェリシティ・ロット
シューマン四重奏団
CD: AEON (AECD 0540)
本来はオーケストラと歌手で演奏される曲であり、録音もほとんどその構成である。
実はフェリシティ・ロットが、このリヒャルト・シュトラウスはとってもいい歌手が、今頃マーラーやワーグナーを歌うとは、驚きであった。
彼女の歌をそんなに聴いてはいないけれども、リヒャルト・シュトラウスの「インテルメッツォ」(クーン指揮、レーザーディスク)にはとても感心して、特に美声でもなく、パワーで圧倒するわけでもないこの人の、大人の演技、物理的に無理せず表現としての豊かさは、印象に残った。
そして今回、この選曲で、しかもピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの四重奏で歌われる。おそらくこの企画のプロデューサーでありピアノも担当しているクリスティアン・ファーヴルが、編曲したものである。
曲の順番もよくて、リュッケルトで青春の夢、香り、孤独、神、絶望、諦念、その後ヴェーゼンドンクではトリスタンの前触れとなる愛と性のほとばしりと苦しみ、そして愛の死となる。
こうして聴くと、この四重奏とソプラノはとても聴きよくて、こちらは歌詞に集中していくことが出来る。ソプラノも無理せず、歌の内容と表現に専念し、またインテリジェンス、センス、そして充分な官能性を持つ人だから、飽きずに最後まで、この流れを堪能することが出来る。
ヴェーゼンドンクはこんなに丹念に聴いたのは、というより最後まで聴く気になったのは初めてだし、大オーケストラでなくてどうかと心配していたトリスタン・愛の死では、編成が小さいためかテンポは随分速いけれども、あの大波は充分エロティックだった。
見方によっては、この四重奏はオーケストラより、また時にピアノにより演奏されるものより、わかりやすすぎ、通俗的だ、とも言えるだろう。ただ編曲とはいえ、これはマーラーがワーグナーが生み出したものから、出たものである。
さてフェリシティ・ロット、この編成、スタジオ録音、これらをうまく使っていい結果を残してくれた。リヒャルト・シュトラウスの眼を通したマーラー、ワーグナーということも出来ようか。セクシーな大人の音楽である。
調べてもこのこの人の生年は確かなところがないのだが、1947年生まれらしい。2007年6月の録音で、2006年に亡くなった、彼女のレパートリーやキャリアと重なるところが大きい、指揮者アルミン・ジョルダンに捧げられている。
ついでに、
リュッケルトの「真夜中に」は、どうしてもディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウがレナード・バーンスタインのピアノで歌ったものがいまだ耳から離れない。この若いときの、真夜中の恐怖、孤独は唯一無二のものかも知れない。それにバーンスタインのピアノ、「子供の不思議な角笛」(ワルター・ベリー、クリスタ・ルートヴィッヒ)でもそうだけれど、彼のどうしても説明的なところが残る指揮よりすごい。