メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

英雄の生涯 (カラヤン、ロンドン・1985)

2009-01-27 22:17:13 | インポート
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 作品40
カラヤン指揮ベルリンフィルハーモニー
1985年4月27日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
 
TESTAMENT(英)から発売されたBBCのソースである。カラヤン(1908-1989)晩年のライブ録音がこのところ続々と発売され、評判はいいようだ。
とはいえ、聴いたのはこの盤がはじめてである。
 
「英雄の生涯」はカラヤンが得意とし、録音も多いが、かなり後になって聴いたDGオリジナルズCD、この1959年録音が、勢い、豊かな表情、そしてステレオ初期にしては見事な録音で、感心していた。
 
このライブは、さらに迫力がありながら、細かいところがよく聴き取れ、バランスもよく、また「英雄の妻」、「英雄の戦場」など、表現の細部が見事に立っていて、またメローな練れたところはこれも表現に酔うようだ。
そしてコンサート・マスター レオン・シュピーラーのヴァイオリン・ソロが際立って美しい。これから何度も聴くだろう。
 
ベートーヴェンの第4は、交響曲9曲の中であまり積極的に聴かなかった曲だが、この演奏では表情の美しさと密度の深さ、それに寄り添うリズムのきわめて的確なこと! カラヤンでも、ベートーヴェンではもっと構造、構成を要求してしまうのだが、こうして演奏されてみると、納得させられてしまう。
カラヤンのファンでもあるカルロス・クライバーが繰り返しこの曲を演奏しているのも、今これを聴くと、自然なことに思えてくる。
 
解説を読むと、この前の日本公演あたりから、カラヤンとベルリン・フィルの関係は修復されていたらしい。それでもまだ緊張はあっただろう。もしかしたら、ロンドンで無様なことは出来ない、だからオーケストラも初心に帰って素直に必死になったか。
 
1960年代のスタジオ録音だって、洗練されて優れた演奏がある一方、シューベルトの第9(1968)、シベリウスの第4、第5(1965)など、こういう激しさがいい結果をもたらしたものがないわけではない。
ただその後の全盛期を経て、晩年にまた違った趣きが出てきたのは面白いことだし、よかった。 
 
録音は、BBCの放送録音として標準的なものだろう。放送時のリミッターがかかってないオリジナル・テープから起こされたものと想像する。
 
ところで「英雄の生涯」を聴いてしまうと、晩年のライブでもう一つシュトラウスの演奏がなかったのかな、と淡い期待を抱いてしまう。23独奏弦楽器のための「メタモルフォーゼン」(変容)。
「英雄の生涯」作曲からシュトラウスは半世紀も生きており、それは「ティル」、「ドン・ファン」、「ツァラトゥストラかく語りき」など、主人公の生涯ものというべきものをいくつも書いている。「英雄の生涯」は自分の生涯を予想し、それはそんなに外れてはいなかったかもしれない。それでも、大戦を経験した後の「メタモルフォーゼン」には、歴然として、沈潜し、ぐるぐるとめぐる後悔が、綿々と続いていく。
 
カラヤンには、1969年、1980年と、この種の曲にしてはあまり時間をおかず再録音がある。おそらく彼にも、この曲のなかに入らざるを得ない何かがあったのだろう。変な言い方だが、聴けば見事な演奏である。
 
だから、晩年のライブがあればと思うのだ。編成が特殊だからライブはなかったかもしれないが。

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