「孤獨の人」 藤島泰輔 著 (岩波現代文庫)
藤島泰輔(1933-1997) が書いた「孤獨の人」という小説が、著者の学習院在学時に学友だった皇太子(今上天皇)のことを書いていてかなりゴシップ沙汰になったということは、まだものごころついていなかったはずなのになぜか覚えている。著者が記者として勤めていた東京新聞を家でとっていたから、出版より少し後かもしれないが目に入りやすかったのだろう。
とはいえ、その本そのものを目にすることもなく、おそらくその後の再販流通も少なかったらしく、忘れたころに最近出てきた。
もっと際物とおもったら、これはこれで、普通にはうかがい知れない学習院のその学年の特殊な事情ばかりでなく、高校生同志の様々な交流確執がかなり生々しく遠慮なく書かれている。
コクトー「恐るべき子供たち」とまではいかなくても毒を含んでおり、同じ年に出た石原慎太郎「太陽の季節」より普遍的なものをとらえているようなところもある。
ただそれが、社会や時代を突き刺す何かを持つかというと、その一世代後に出た庄司薫の赤頭巾ちゃんシリーズまで待たなくてはならなかったかな、と後者の登場をリアルタイムに見ていた私は勝手に考える。
それにしても、本の冒頭に三島由紀夫の卓抜な序があることそして著者の生前の政治的スタンスを考えれば、これがあの岩波から文庫で復刻されたことに、時代の推移を感じる。