私のチームの2人の社員はその日以来本当に仕事がなく、可哀そうなほど席に座っているだけ。
新人のHさんは手帳を見たり、新聞を読んだり、自分の作ったレポートを見直したりとそんな状況で、上司のYさんは研究と称して図書館へ行きました。
簡単に解雇されない社員はそれで済んでも、アルバイトの私はそうもいかず、それに「私を辞めさせまい!」と動いてくれた何人かによってその日その日の仕事が与えられました。
今日はMさんの調べ物の仕事。
明日はSさんの資料整理の仕事。
仕事に優劣はないと思っている私は「こんな仕事をワタシにやれですって?!」とは思わないけれど、みんなが一生懸命自分の仕事を削ってでも分け与えてくれる「日雇い」の仕事がとても心苦しく、それでも希望を持って会社へ行ったの。
夜は寝られなくとも。
「これをやっている間にうまく事が運べばいいなぁ」
まさに、祈るような気持ちでした。
「4階に産休の子が出たって!これで一件落着だよ!社長も納得してくれた!」
上司のYさんが言ってきた時、私は心底ホッとする反面、この数日間に開いた胸の中の空洞はどうしたものかと、戸惑っていました。
でも、誰かを切るのではなくオメデタという形での契約解除なら、まだ私も心苦しさは生まれないかも…
良かった。
私はこれで4階に移って仕事が続けられる…
そうして6月が終わりました。
0701、再び上司のYさんに呼ばれます。
「二転三転してしまって本当に申し訳ない。4階に妊娠した子がいたでしょう?彼女とMくん(ジェントル上司)が話をしたんだけど、彼女は臨月まで働きたいと言うんだ。今度これを無視するといわゆるマタハラになりかねないらしくて、社長がやっぱりMarchさんに辞めてもらえ。今度は最終通告しなさい、と言うんだ。」
あー…やっぱりか。
最近問題のマタハラね。
まぁ、そりゃそうだ。
私が彼女だって同じ選択をするだろうし、マタハラで訴えられるのは会社だって嫌だろうよ。
でもさ、じゃー私のは何ハラなの?とムカムカしたのも事実。
私のは何のハラスメントでもないの?
ヒマハラじゃないの?
社長はあと半年を待てないのね。
あと半年、私と彼女がWで働くことを待てないんだ。
翌日、私の定休日。
私は労働基準監督署に行く前に、ジェントル上司Mさんに電話をしました。
彼の認識はどうなのか?と。
頑張って抵抗してくれたMさんをもってしても「もうだめだ」と言うなら、私は潔く身を引こう。
彼が「まだあきらめてない」と言うなら私も頑張る。
「実際のところ状況はどうですか?マタハラの話は聞きました。私はやっぱりアウトですか?今の状況でウルトラCは起こりえないでしょう?」
Mさんは、
「俺はまだあきらめたくはないけれど、でも1か月後の解雇日までに好転するから、と100%で確約できないのも事実なんだ。
6階に大きな仕事が入るとかそういうことでもない限り、社長は納得しないと思うよ。
もしこの先、誰かが急に実家の家業を継ぎますと辞めでもしたら俺はMarchさんに残ってほしいけど、その時に君がフザケンナ!とケツまくったとしても俺はそれを尊重するよ。
その選択権は君にあるんだ」
もういいや。
そこまで思ってくれた事実があるのなら、もうこれで良しとしよう。
22年間で得たものは幾人かの社員の信頼。
悲しがってくれる数人のアルバイトの仲間。
ありがたいことではないか。
思い出でご飯は食べられないけど、思い出でお金は生まれないけど、それでも私の心の中のプライドだけは誇り高く持っていよう。
毎日少しばかりの仕事を分けてもらい働くこと。
中には心配するフリして今回の顛末を楽しんで見てる社員がいるのも知ってる。
自分に火の粉が降りかからないと人の気持ちがわからない人たち。
自分だってヒマなくせに。
ヒマになったここ2年は「手伝うことありませんか~?」と他のチームに営業にも行った。
押しの強い上司についているアルバイトの子はヒマになるとその上司が次の仕事をどこからともなく見つけてきてくれていた。
でも私はいつも自分でやったんだ。
本来は研究員がやる外回りの仕事も「私もやりたい!」と頼み込んで行かせてもらった。
私が手がけた仕事を「Marchさん、○ちゃんが仕事ないからその仕事教えてあげて」と横取りされたことも。
なまじキャリアがあるからかくだらない仕事は回ってこず、私に頼むなんて恐れ多いという空気。
「ゆっくりやっていいからね」と言う枕詞がついて仕事を分けてもらうこと。
…ありえないでしょ?
私、心が折れちゃったんだよね。
そうして私は整理解雇を受け入れたの。
受け入れたんならあとは権利を行使するのみ。
明日を最後にもう会社にはいかないぞ!と決めたのが0702のことなのです。
「1から10までMarchさんにおんぶにだっこだったよね。もし辞めた後もいつもの仕事が入ったら応援に戻ってきてほしい。ムシのいい話なのはわかるけど」
上司のYさんにそう言っていただいたけれど、私は知っている。
仮にその時そのPJを手伝ったとしても、それが終わったらまた花火のように消えねばならず、次は自分たちでやってみようと新しいバイトさんが入ったりして、その時に私は2度振られるんだってこと。
世の中に私じゃなきゃできない仕事なんてものはなく、その時にもう一度「不要」を突きつけられるのはまっぴらごめんだわ。
だからこの先声が掛かってももう行かない。
ううん。
私のきっぱりした態度を見て、上司ももう悟っただろう。
「せっかく月末までのお仕事を作っていただいたのに、明日から有休を使ってみようと思います。月末までもう働きたくありません」
私がそう言ったら、ジェントル上司はとても悲しそうな顔をした。
ごめんなさい。
でも、もういやなんだ。
好奇の目にさらされることも。
おこぼれを恵んでもらうことも。
「俺たちミスったなー。こんなことになるとわかっていたらあの時無理にでも4階に引っ張っておくんだった。そのあとにも何度かチャンスはあったと思う。俺が先を見越せていればこんなことにはならなかったのに。本当に申し訳ない…」
エレベーターで2人きりになった時、ジェントル上司は言ってくれました。
「いえ、私がYさんとMさんの両方の仕事をしますなんて欲張ったからいけないんですよ。」
私自身がアルバイトの分際でありながら、大学生のバイトさんを大人数頼んだときにはその適性に応じての配置もしていたし、スケジュールも組んでいた。
私は仕事が好きだったんだよね。
可能な限りのやりがいのある仕事をしていたかったの。
専業主婦5日目の今日。
有給休暇4日目の今日。
まだ心の中には悔しさが充満しています。
こうしている時間にも同じようにヒマな人たちが少ないパイを分け合って働いているんだ。
なんて理不尽…
でも、世の中にはもっと不安でいっぱいの人がいて、これが一家を養うパパだとしたらその心情はこんなもんじゃ済まないだろう。
お友達の友達は息子さんを亡くしたとブログでも読みました。
私より大変な人がもっともっといるんだ。
それを一週間心の中で唱えながら、私なりに頑張ったんです。
だからそれよりは今は少し楽。
幸いなことに、夫はこの状況を少し喜んでいます。
まず、帰宅したら晩ご飯ができているという事実(笑)
今までは一緒に20時に帰宅してダッシュで刑務所風呂に入り、2人で粗末な晩ご飯を作って、21時過ぎから食べるのが普通だったの。
食べ終えたら消化する間もなく夫は寝るわけ、明日に備えて。
それが私を駅でピックアップすることもなくまっすぐ帰り、20時前に食事が始まるのはとてもいい感じだと(笑)
それと、今まで奥さんが遠くまで通勤していたのが心配だったと。
やれ小田急線が人身事故だの、3.11もあったし、一日のうちの4時間を通勤に費やしてまで働きに行き、クタクタになっているのがなくなるのは安心だと。
もしこの先有事があって、その時に私がたまたま新大久保にいたとしたらそれは運命だけど、実際には家にいるかピックアップしやすい近いところで働いていてくれたらそれは安心であるって。
まぁ、私の心の中の空洞は夫には100%はわからなくても仕方ない。
彼は私じゃないからね。
けれど、この状況を「少しほっとした」と言ってくれるんだから、そういう意味ではいいのかもしれません。
まずは晩ご飯。
そしてサボり続けていた家事全般。
結婚以来初めての主婦業を少しはやってみようかな。
会社を辞めるということ。
整理解雇されるということ。
年齢的にも遠くない未来に起こると思っていたけど、それがいつだかはわからなかった。
そしてまさかここで来るとも思っていませんでした。
この先、少しのんびりしたらまた仕事をしたいと思うけど、今度はうまく見つかるのでしょうか?
22年ぶりの仕事探し…正直言うと、考えたらどっぷりブルーになります。
今の会社は30歳でお世話になり、みんな一緒に歳をとったから自分の年齢が肩身を狭くしたことはなかったわ。
けれど一歩外に出たら今度はいやおうなく突きつけられる自分の年齢…
「おばさんじゃん」という現実。
私の持ち前のパワーだけで乗り越えられないことも多いと思う。
イヤだなぁ。
本当にイヤだ。
それでももう現実は決まっているんだし、流されてみるしかないよね。
何人もの友達が「大丈夫?」というメールをくれました。
私にとっての働くことの重要さを理解してくれていたもんね。
家事を軽くは考えていないけど、私自身のやりがいは家庭の外にもどうしても欲しいんだ。
くんちゃんは可愛いブーケをくれました。
「ひとまずはおつかれさま」と。
会社の人でもないのにね(笑)
22年ぶりの黄色い花束。
昔ビールを辞めたときには毎晩持って帰った黄色い花束。
黄色いバラも、トルコキキョウの黄色も可愛いよ。
こうなったら遊ぶわよー。
働いているからと言い訳してなかなか会えなかった友達にも会いに行こう。
今のうちに。
専業主婦のプロの友達には歌舞伎も連れていってもらおうかな?
私、夕飯の支度さえしたらあとは大いばりで出かけちゃいますから(笑)。
友よ。
たまには私と遊んでくださいね(^^)