「今度さぁ、何見たい?」
「そうやな、『アビエイター』かな」
「マジー! ミーハーやな」
「いやいや、ディカプリオだからちゅうのやないんや。主人公のハワード・ヒューズってのは実に興味深い人物でなぁ…」
そもそも…。
映画にもなった「 L.A. コンフィデンシャル 」の原作者であるジェームズ・エルロイが、「アンダーワールドUSA三部作」というのを書いている。そのシリーズ第一作が、「 アメリカン・タブロイド 」だ。ヒューズが主人公というのではなく、そのひとりといってよいのだが、非常に存在感のあるダークな人物として登場してくる。なにせ冒頭、自分にヤクの注射を打っている場面から始まるのだ。もちろん登場人物のすべてが一癖も、ふた癖もある悪漢ばかりだ。彼らがJ・F・ケネディが大統領に就任する直前から、暗殺されるまでの数年間の動きを至近距離から描いていく。体力が要るが、面白い作品だ。ヒューズのダークな部分が圧巻だ。
また、軽妙なところでは、ステュアート・カミンスキーの、探偵トビー・ピータースを主人公にしたシリーズに「 ハワード・ヒューズ事件 」がある。ハリウッドを背景に、誠実なんだが、人間との関わりが上手にとれない変わり者としてヒューズが描かれている。史実にのっとる作家だからここらがヒューズの実像にちかいのだろうか。軽く読めるのでお勧めだ。
ヒューズが活躍した時代に対する憧憬がある。アメリカが若々しく、ナイーブだった頃。映画を作れば大当たり、飛行機を飛ばせば世界一周をやってのける。まさにアメリカン・ドリームが手に届きそうな錯覚を覚えるのだ。ぼくはオプティミストだ。
書物でいろんなヒューズと出会っている。最近では、「 ハワード・ヒューズ 」を読んだ。どうも『アビエイター』の原作ではないらしい。映画を観たら印象が変わるだろうか。書物でとらえたイメージはディカプリオよりも強いだろう。