鶴岡地区医師会だより

三原一郎目線で鶴岡地区医師会の活動を配信しています。

地域包括ケアにおける多職種対応型電子カルテシステムNet4Uの活用

2018-02-16 11:02:32 | 日記


Mothly Book MEDICAL REHABLILITATION

特集 「医療ITを活かすチームリハビリテーション」

地域包括ケアにおける多職種対応型電子カルテシステムNet4Uの活用

三原一郎1)、佐藤健一2)

1)三原皮膚科院長、鶴岡地区医師会理事
2)鶴岡地区医師会在宅サービスセンター、係長・作業療法士・山形県作業療法士会 理事



Net4Uと鶴岡地区医師会

今回のテーマである地域電子カルテNet4Uは、山形県鶴岡地区医師会がカバーする人口約13万人の鶴岡市・三川町からなる庄内南部地域で運用されている。庄内南部地域には、520床の市立荘内病院を中核とし、2つのリハビリテーション病院を含む7つの病院、93の診療所が点在している。鶴岡地区医師会は、健康管理センター(健診、臨床検査)、在宅サービスセンター(訪問看護、訪問リハビリ、訪問入浴)、ケアプランセンター、地域包括支援センター、准看護学院、湯田川温泉リハビリテーション病院、介護老人保健施設を運営し、職員数は450名に及び、地域の医療・介護の大きな部分を担っている。Net4Uは、費用負担も含め鶴岡地区医師会が運営しており、16年以上に及ぶ継続的な運用は、鶴岡地区医師会の経済的基盤に負うところが大きい。

Net4Uの歴史

Net4Uは、平成12年度の経産省の地域医療ネットワーク化事業に採択されたクラウド型の地域電子カルテシステムである。今年で、運用開始以来17年目を迎え、本邦で最も歴史のある地域医療情報システムでもある。当初は、病診連携を目指し運用を開始したが、2012年に医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャルネットワーク「Net4U」として、おもに在宅医療における多職種協働を支援するシステムを目指し全面改訂された。その後、患者・家族支援ツール「Note4U NOTE」や心筋梗塞・脳卒中地域連携パスとの連携機能を追加しながら現在に至っている。なお、Net4Uは、新潟市、富山県小矢部市、宮崎県日南市、長野県佐久地域、小諸北佐久地域にも導入・運用されている。

Net4Uのしくみ

Net4Uは、セキュリティーの保たれたネットワーク上で地域のさまざまな医療者・介護者が患者情報を共有できるツールである。図はメイン画面であるが、左側に患者の個人情報、治療中の病名、情報共有施設が一覧表示される。画面中央にはカレンダーが表示され、所見、処方、検査などの状況が俯瞰して表示される。右がカルテ表示画面で、複数施設が記載する所見、検査、処方、メモなどが時系列で表示され、あたかもSNS風のつくりになっている。また、検査での一覧表示やそのグラフ化、各職種に必要とされる煩雑な文書もテンプレートの利用で簡便に作成できる。

Net4Uの運用状況

鶴岡地区のNet4U参加施設は、病院5、診療所30、訪問看護ステーション4、訪問入浴2、居宅介護支援事業所21、老人施設5、地域包括支援センター3である。職種別でみると、ケアマネジャーなどの介護職の参加が最も多く、全体の33%を占め、次いで看護師(27%)、医師(19%)、リハ職(8%)の順である(図)。図は、Net4Uを利用した患者の職種毎の年次推移であるが、訪問看護師の伸びが顕著である。リハ職が関わった患者も4年前の209名から昨年度は316年名と増加傾向にある。総体的に、在宅医療でのNet4U利用患者数は年々増加傾向にあり、地域の在宅医療に関わる医療・介護職にとって必須のツールとして定着しつつある。

患者家族支援システム「Net4U NOTE」

在宅医療においては、患者と接する時間が多い家族への支援は極めて重要である。そこで患者・家族が、サービス提供側である医療や介護と繋がる仕組みとしてNote4U NOTEが開発された。Net4Uは医療・介護従事者のための患者情報共有ツールという位置づけであり、セキュアなネットワーク上で機能している。一方、Note4U NOTE は、一般的なインターネット回線を利用し、Net4Uとは別のネットワークで機能する(図)。Net4UとNote4U NOTEをデータ連携させることで、患者・家族側はNet4Uの検査結果、処方内容を閲覧でき、見守り情報を利用することで、相互のコミュニケーションも可能とした。なお、Note4Uは、操作がより簡便なスマートフォンやタブレットの利用をおもに想定しており、写真の添付や音声入力にも対応している。Note4Uはおもに在宅医療における家族支援が目的であるが、高齢者が対象であることもあり、なかなか活用には至っていなかったが、最近は活用事例も蓄積されつつある。

訪問リハビリテーションとNet4U

在宅医療は生活を支える医療であるが、継続した在宅生活を支える上でリハビリテーションは重要な役割を担っている。また、リハビリテーションの目的として、単に機能の維持・向上だけではなく、「楽しみを支える」、「生きがいを維持する」というような、地域包括ケアシステムの理念でもある、その人らしく生きることを支援するという重要な役割も期待されている。他方、リハ職が在宅医療の分野で活躍するには医師、(訪問)看護師、ケアマネジャー、薬剤、歯科医師など在宅チームとの協働が不可欠であり、そのためには、リアルタイムな情報共有や相互のコミュニケーションを可能とするツールが求められ、当地区ではNet4Uが活用されている。
 Net4Uには、現在リハ職が19名参加している。内訳は作業療法士10名、理学療法士9名である。また、訪問リハ職として14名、病院リハ職として5名が参加している。前述したが、訪問リハビリテーションでのNet4U利用患者数は年々増加傾向にある。因みに、当地区にはリハ職が437名在職しており、そのうち訪問リハ職は21名(4.8% )であり、67%がNet4Uを利用している。

以下にNet4Uを利用した経験のあるリハ職からの意見を列記する。

・他の専門職の評価に基づく意見を聞くことができ、リアルタイムで全体像を把握できる。
・他の訪問看護・リハビリテーション事業所の同職種とのつながりのなかで、介入に対しての意見交換を行った。
・転倒した外傷部位の写真をかかりつけ医に画像送信することで、その日のうちに本人・家族へと電話対応して頂いたケースがあった。
・医療的情報を得やすい、状態の変化を発信しやすい。
・デイケアのリハ職と情報共有できるとリハの効果が高められそう。
・Net4Uがあると、状態を事前に把握することができ、介入や呼び掛け方、患者や家族への説明は変わると思う。
・ガン末期の在宅緩和ケアにおいて、Net4Uはリアルタイムに情報を得ることができとても有益なツールであると思う。Net4Uがないと、チーム全体での情報共有は難しい。
・Net4Uを通じて多方面からの情報を得られると、リスク管理など利用者へのプラスとなると思う。
・普段は、直接やりとりをすることは難しいと感じる医師ともつながりを持てると思う。
・メリットとして、受け手側の時間を奪わずに情報提供できる。また、空いている時間に確認できたり、緊急フラグでの緊急情報が設定できる。
・Net4Uがあると、利用者・ご家族にとって、同じ内容の説明をいろんな人に何度も説明しなくてもよいので負担が少なく、しかも代わるがわる入る人がいても、生活の流れや状態の変化(経時的)に沿ったサービスを提供してもらえるので、サービスに対する安心感や満足感が得られやすいと思う。
・Net4Uがない場合は、サービス側や利用者側が情報共有するための何らかの手段や手間が必要であり、情報共有するための負担が生じたり、時間がかかったり、日々状態の変化が著しいがん終末期の患者の対応に苦慮することが多くなるのではないかと思う。
・課題として、参加事業所の増加と、他職種がNet4U上で得た情報を本人・家族に話してしまうことがあり、「なんであなたが知ってるの?そんなこと言われているの?」とトラブルになってしまうケースがある。
・参加施設が今より多くなれば、より円滑なツールとして使用できるのではないか。
・医療と介護の連携が大変スムーズに行えるので、重度な障害を持った方々の在宅生活には、大変ありがたいツールだと思う。

まとめ

Net4Uは、とくに在宅医療における多職種、多施設間での情報共有や相互のコミュニケーションを可能とすることで、在宅医療を支えるツールとして着実に成果をあげてきた。現在のNet4Uの参加職種は、ケアマネジャーがトップであり、訪問看護師、医師、リハ職と続く。この実態は在宅医療においては、ケアマネジャー、訪問看護師の役割大きいことを示していると考えられる。訪問リハ職のNet4U参加割合は比較的高く、ユーザの意見からも示されたように、その有用性は高く評価されている。一方で、在宅医療にかかわる訪問リハ職はまだ数が少なく、在宅患者のリハビリテーションの多くは、施設あるいは病院で提供されているという現状がある。現在、Net4Uは在宅医療という括りのなかで動いているが、今後は地域のリハビリテーション提供施設との連携も視野に、情報共有する施設を広げていきたいと考えている。
当地区では、脳卒中、大腿骨近位部骨折など6つの地域連携パスを運用し10年以上が経過した。当地区の連携パスの特徴は、全例登録を原則とし、パス情報を疾患データベースとして蓄積していることにある。表記2疾病では、リハビリテーション病院を退院後、多くは自宅や施設に退院し、必要に応じて在宅あるいは施設でのリハビリテーションを継続することになる。このような患者を連携パスやNet4Uを利用し、多職種、多施設で連携できれば、再発や寝たきり予防を含めより質の高いケアを提供できる可能性がある。

地域包括ケアシステム構築という新しい地域づくりの課題に対するリハビリテーション側からのアプローチは、地域リハビリテーションの実践にあると言ってよい。地域リハビリテーションとは、「障害のある人々や高齢者およびその家族が住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に、いきいきとした生活が送れるよう、医療や保健、福祉及び生活にかかわるあらゆる人々や機関・組織がリハビリテーションの立場から協力し合って行う活動のすべてを言う」と定義され、地域のあらゆる人々との協働が活動の基本とされている。

一方で、Net4Uはセキュリティーの問題もあり、現状ではあくまで医療や介護などのフォーマルなサービス提供側に利用が限定されている。しかし、地域包括ケアシステムにおける情報共有のあるべき姿を考えると、介護予防・日常生活支援総合事業におけるインフォーマルなサービスや地域住民主体のさまざまな活動などとも連携できるツールに発展していくことが望まれる。あらたに開発したNet4U NOTEは、患者・家族も参加できるツールであるが、今後は地域のさまざまな活動とも連携できるしくとして進化していくことも視野に入れたい。地域包括ケアシステムという、あらゆる主体が参加する地域づくりが求められているなかで、それを支援するツールとしてNet4UやNet4U NOTEのようなITツールは、今後とも様々なかたちで、拡大、発展していくことが期待されている。



アブストラクト

 山形県鶴岡地区医師会は、16年以上にわたり地域電子カルテNet4Uを運用しているが、2012年に「医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャルネットワークNet4U」として、在宅医療における多職種協働を支援するシステムとして全面改訂された。参加施設は病院、診療所、薬局、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業、地域包括支援センター、老人施設など多岐にわたる。一方、ユーザの職種別ではケアマネジャーが最も多く、次いで訪問看護師、医師、リハ職の順である。Net4U利用患者は年々増加傾向にあり、地域の在宅医療に関わる多くの職種にとって必須のツールとして定着しつつある。当地区における在宅訪問リハ職、21名(2017年7月末現在)の70%近くはNet4Uに参加し、訪問リハビリテーションを実施しながら他職種との連携にNet4Uを活用している。一方、訪問リハ職の数はまだ少なく、リハビリテーションの殆どは、病院やサービス事業所で行われていることから、Net4Uを利用したこれら施設との連携は今後の課題である。

キーワード

訪問リハビリテーション(home-visit rehabilitation)、地域医療連携(regional medical cooperation)、在宅医療(home healthcare)、地域電子カルテ(regional electronic medical record system)、地域包括ケアシステム(integrated community care-system)

キーポイント
 Net4Uは、医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャルネットワークとして、地域の在宅医療に関わる多様な職種にとって必須のツールとして定着しつつある。

ライターズファイル。
1976年、東京慈恵会医科大学卒、同年、皮膚科に入局。
1979-81年、ニューヨーク大学で皮膚病理学を研鑚。
1993年、同大学病院勤務を経て、郷里の山形県鶴岡市に皮膚科医院を開業。
1996年、鶴岡地区医師会理事、同情報システム委員長。
2002年~12年、山形県医師会常任理事、日本医師会のIT関連の委員会委員、鶴岡地区医師会理事、同副会長など
2012年、鶴岡地区医師会会長に就任
2016年、同地区医師会理事(医療情報・医療連携担当)


文献


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