「丹羽 宇一郎」(にわ ういちろう)さん(伊藤忠商事相談役)といえば、昨今の財界人の中で一番尊敬に値する方だと思っている。
自分の一方的な見方だろうが大会社の社長、会長を歴任されながらも、ちっとも偉ぶらないし、言われることがすべて”ごもっとも”といつも共感している。
先日の19日〔月〕の朝刊〔地元紙)に「”のほほん”天国日本」と題して次のような寄稿をされていた。
このほど訪問したワシントンで学者と政治家に会って次のような話をした。ナマコとカニをめぐる次のような日本の言い伝え。
ナマコは弱りやすく漁師が沖合いで捕っても港へ着くまでにほとんど死んでしまうが、そのナマコの群れの中にカニを1匹入れておくと、生きたまま持ち帰れるという。
なぜか?
カニはナマコの天敵に当たり、緊張するため死なないといわれている。「何事も新鮮であり続けるためには天敵が必要」とのたとえ話として彼らに紹介した。
グローバリゼーションの中でソ連が自壊してほぼ20年。この間、資本主義の独走態勢が続いてきた。ソ連共産党という天敵がいなくなったことで西側の資本主義は無人の広野を行くがごとく独走できたといえる。
だが、このことが資本主義の暴走を生んだのではないか。資本主義へのチェック機能が働かなくなったことがリーマン・ショックをはじめとする金融危機や社会的な格差の拡大を生み出したのではないだろうか。
ソ連は資本主義にとってのカニだったわけで、カニ無しではわれわれの社会が衰退していきかねない。
と、いった趣旨のもと、日本の若者はもっと海外に出て、国内のナマコ集団から脱却して危機感と緊張感をもってまた戻ってきてもらうことが必要だと結んであった。
おそらく4月は、公務員、民間を問わず新しく社会人の仲間入りをする若者たちが多いのでそういう人たち向けに投稿されたのだろう。
社会の荒波は実際に体験してみないと分からないが、想像以上に厳しいことはたしか。
こういう次元の高い話からすると、随分と視野が狭くて近視眼的な話になるが、現役時代の終盤に人材育成の研修部門を担当していた折、新規採用職員に配っていた資料を思い出した。
古い書類入れを漁ってみたら、あった、あった。「執務原則」と銘打った1枚のペーパー。
これから40年近い公務員生活の始めにあたって「仕事の心構え」としてある先輩から引き継いだもの。
「お~、懐かしい」。しかし、何とも”味も素っ気”もない題名。
「釈迦に説法」かもしれないし、ブログに登載するには異質、また、あまりにも”かた苦しい”内容なので、ちょっと”ためらった”がもしかして10人のうち1人でも興味を持つ方があればと掲載することにした。
≪執務原則≫
1 主動的地位の確保~戦略的主体性の確立~
○ 「原則」の樹立、「要求水準」の適切な設定、「最終の姿」のイメージの明確化
○ 情報の積極的収集、先手必勝
○ 押されて動く「貨車」ではいけない、一両でも動く「電車」たるべし
2 変化への対応~状況に応じた適切な戦術の採用~
○ 惰性の排除、自分の回りを世の中が動くと思っている「天動説」はダメ
○ 前例は参考にすれどとらわれず、前例を唯一の論拠としてはならない
○ 「反射神経」を磨くべし〔新規発生事態への対応の迅速化)
3 認識の厳密化~総合判断に至る因子の正確な積み上げ~
○ 資料、情報は極力原典に
○ 疑問点は直ちに晴らせ
○ 推測にも推測の根拠が必要
4 連絡の徹底 ~組織の神経系統の正常な作動~
○ 「一日一善」(肝要なところには、最低一日一回顔を出せ)
○ 必要なところのリストの明確化、「新聞を通じての報告」は不可
○ 主観を混じえずに、起承転結を明確に〔特に語尾) 「何が何して何と
やら」
5 役割の明確化~組織全体の力の発揮~
○ 課題と対応方向の常なる確認、配役の適正化
○ 「見物人」は不可(それぞれの「場」における自らの役割の確認と準備)
○ 「印刷屋」「郵便屋」は不可(明白な誤りも正せないようではダメ)
とまあ、いかにもお役人の発想の典型みたいな項目がズラリと目白押しで「民間」にお勤めの方にはちょっと違和感があるかもしれない。
しかし、「押されて動く貨車ではいけない、一両でも動く電車になれ」なんて言葉はあらゆるケースに活用できると思う。
「初心忘るべからず」、小さな意識の積み重ねが10年、20年と続けば大きな差となっていき、自分のため、組織のため、ひいては社会のためにもなると思うのだが。