☆ 「関が原」「覇王の家」「城塞」(司馬遼太郎)
民主党の代表を択ぶ選挙戦がたけなわだが、どっちに転んだとしても負けた方が「命」までも失うということはない。(「政治生命」のほうは別として。)
一方、ずっと昔の戦国時代は天下取りの合戦に負けたほうの大将は家族ともども城を枕の討ち死に、あるいは捕まえられて打ち首、獄門という結果が待っている。いずれにしても必ず命が絶たれる。
時代が大きく違うとはいえ随分な差だなあとつくづく思ってしまう。
(※ 9月8日〔水〕のテレビ朝日「ワイド!スクランブル」〔昼)の番組で、菅首相の夫人〔伸子さん)が出演〔インタビュー録画)し、まったく同じことを言ってたのでビックリ。同じ発想をする人が多いのかも。)
つい最近、司馬遼太郎さんの「関が原」「覇王の家」「城塞」と順に読んだ後に持った感想がこれだった。
これら3冊は題名こそ違え「3部作」といってもいいくらいで東軍と西軍合わせておよそ20万の将兵が激突し、半日の戦いで死者数千人を出した天下分け目の「関が原の戦い」を境にしてその前後の「徳川家康」「豊臣秀吉」「石田三成」といった戦国武将たちの行動と心理状態を史実を踏まえて克明に追ったものだが実に面白かった。
3冊ともまことに分厚い本だが「息もつかせず」という表現がぴったりで、こんなに夢中になって読んだのは久しぶり。やはり司馬遼太郎さんが描く「人間像」にはリアリティがある。
徳川家康は「天下取り」のため権謀術数の限りを尽くしたが、当時はすべてクチコミや手紙による情報操作だった。現代は迅速かつ的確な「ネット」の時代だが、もし家康が現代に蘇ったらどういう手段を弄したろうかと考えることしきり。
また「主君への忠誠心」「打算」「血縁」「恥と面子」などの”しがらみ”の中で逞しく生き抜いた戦国武将たちだが、意外にも人間同士の「好き嫌い」や「友情と思いやり」など感情的な面でも大いに〔言動が)左右されていたことに驚く。
現代の人間の行動パターンとちっとも変わらないし「人間心理の研究」にはもってこいの本。
それにしても、これら戦国武将たちの厳しい「生き様」と比較すると現代の日本人は「民主主義」を謳歌しているとはいえ、それと引き換えにどこか「覇気」を失い「飼い慣らされすぎている」という気がしてくる。あの戦国時代の激しいDNAがちゃんと遺されているはずなのに不思議~。
もちろん、今の時代の方がずっといいのだが。
なお、まだ読んでない方にお薦めするとすれば「覇王の家」「関が原」「城塞」の順に読まれるといいと思う。
☆ 「硝子のハンマー」(貴志祐介)
図書館に行って、「まあハズレてもいいや」と何気なしに借りてきて読んだところ、これが予想以上の面白さ。
『エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、隣室には役員。こうした厳戒なセキュリティ網を破り、社長は撲殺された。凶器は? 殺害方法は?
弁護士純子は、逮捕された専務の無実を信じ、防犯コンサルタント榎本のもとを訪れるが…。』
久しぶりに密室ミステリーの傑作を読ませてもらった。本書は2005年「日本推理作家協会賞」を受賞している。
トリックなどの詳しい紹介はネタばれになって未読の方に迷惑になるので差し控えるが非常に納得のいくものでまったく騙された気がしないし、登場人物の人間像もしっかり描けている。
興味が湧いたので作者「貴志祐介」氏についてネットで検索すると、1959年生まれで、ホラー作家とあり、京大を出て会社に就職するも途中から作家に転向してかなりの本が出版されている。
因みに京大出身の推理作家といえば、あの高木彬光氏を嚆矢として綾辻行人、法月倫太郎、我孫子武丸、麻耶雄嵩などがいる。
あまりに面白かったので、次回の図書館に行った時に著者の本を手当たり次第に借りてきて読んでみた。
「青い炎」「天使の囀り」「悪の教典〔上、下)」「新世界より〔上、下)」。
このうち「新世界より」はホラー過ぎてよく分からなかったが、ほかは、なかなか面白かった。まだ比較的若い作家なのでこれからも楽しみ。