この三連休のど真ん中の20日〔日)、久しぶりに大宰府のM田さん宅の「音」を聴きに行った。
我が家の「音」を客観的に見つめるためには他流試合が絶対といっていいほど欠かせないが、つい最近、湯布院のAさんからM田さんのところで「凄い音が出てるよ」と聞いたので「駄耳」の保養にと出かけたもの。
いきなりの、当日朝の連絡だったがありがたく”ご快諾”を頂戴したので出発は8時45分。小雨模様の天気の中、135kmの距離を一気に駆け抜けて到着したのは10時15分だった。
M田さんは自動車整備工場を経営されるかたわら、独自にトランスの線の巻き方を研究されてアンプを作られるほどの「トランスの権威」で実践派である。
全国的にオーディオ関係の知人も多く北九州の「管野アンプ」で知られた社長さん(故人)とも懇意にされていた方で、オーディオ歴は自分よりもはるかに長い。
システムはウェスタンの300B真空管(オールド・刻印!)のシングル・アンプ(自作でデカくて超ど級)で45cm口径ウーファー、ウェスタンのショートホーンなどを組み合わせて4ウェイで聴かれている。
SPボックスを一切使わず部屋の奥側壁面を全面バッフルで仕切り、隣の部屋でSPユニットの背圧を受け止める理想的な仕組みになっている。
ちょっと話が逸れるが、このウェスタン300Bの刻印は毎日10時間、アンプのスイッチを入れて10年以上になるがいまだにビクともしないという。
この耐久性だけは音質で肩を並べると称されているPX25真空管(英国製)といえども、とても追いつかない。我が家では最近2本ツブしてしまって歯噛みしているところ。
話は戻って、最初に聞かせてもらったのが1928年録音の「フバイ」というヴァイオリニストの演奏が入ったCD。当然、往時のSPレコードからカッティングされたものだが、その音の生々しさにビックリ仰天。
全帯域で音の密度が濃くて、充満している感じ。
ヴァイオリンの音はおよそ200ヘルツ~2000ヘルツを「基音」として、その上下の倍音で成り立っている。
2000ヘルツ以上の高い方の倍音はどんなシステムでも比較的簡単に出せるが、200ヘルツ以下の低い方の倍音をきちんと鳴らすのは「至難の業」というのがこれまでの自分の考え。
我が家のオーディオ・システムでも一番苦労している部分がそれだが、M田さんのシステムではいとも簡単に出てくる感じ。
このあたりの周波数をきちんと克服できると楽器の音が生の音に近づく。
音の良否の判断基準については、百花繚乱のようにいろんな意見があり、それぞれの好みも手伝って断定的な物言いは”はばかられる”が、自分の拙い経験で言わせてもらうと「楽器の音がどれだけ正しく再生できるか」がポイントだと思っている。
これには「音の立ち上がり」が大きくものをいう。
「音の立ち上がり」とは送られてくる「音声信号」に対しSPユニットがどれだけ忠実に反応できるかという話で、前の音を引き摺ったりするとどうしても次の音と微妙に重なり合って結局は音階がハッキリしなかったり、濁った音になってしまう。
したがって「音の立ち上がり」はオーディオの生命線ともいうべきところでスピーカーとアンプの双方がハイレベルの次元で両立しないと、とても無理。
たとえて言えば「ヴォワ~ン」と膨らんだような低音ではなく、「ガッ」と瞬間的に音が出入りする感じ、猛禽類の「鷲」が鋭い爪で獲物を”むんず”と捕まえたときのような制動力が不可欠というわけ。
ここまでに至るM田さんの膨大なノウハウが偲ばれるところだが、それにしても通常のCDでは聴けないこういう音を収録しているソフトのほうもすごい。
「このCDはどこから手に入れたんですか?」
「管球王国(ステレオ・サウンド社)の筆者の”新”(あたらし)さんから、こうしてSPレコードの音を録音したCDを送ってもらっている。我が家のシステムで試聴したうえで率直な感想を連絡してるよ。」
この魅力的なCDを、我が家のパソコンの外付けCDドライブ「プレクスター」でコピーしたいのはヤマヤマだが、とうとう帰るまで「貸してください」との一言がいい出せないままだった。残念。
結局10時過ぎから16時ごろまで、厚かましくも昼食をご馳走になりながら6時間ほどお邪魔していろんな曲を聴かせてもらったが、これほどの「音」になるとスピーカーの前から離れるのが惜しくなる。
帰りの”降りしきる雨”の中で、クルマを走らせながら考えたことだった。
「あの音に比べれば我が家の音は小じんまりとまとまって、まるで箱庭のような音だなあ。低域のSPユニットを励磁型にして、ネットワークと低域用アンプを全面的に見直すとあんな音になるんだろうが、もうとてもそういう元気は出てこないよねえ。」
ちなみに、ここでいう元気とは「資金力」と「体力」と「根気」のことをいう!
こうなると、どうあがいてみても我が家の低域についてははじめから半分ほどは白旗を掲げざるを得ないようだ。
あとの対抗できるものといえば中高域用のSPユニット「アキシオム80」の艶のある「お色気」で勝負するしかないが、これはちと淋しい。
今日は自分のオーディオのレベルを改めて思い知らされた結果になったが、実にいい勉強をさせてもらった。