本書によると、人間の寿命はこの100年間で54年も伸びたそうだ。
とはいえ、日本の場合、男性の平均寿命が現在81歳だが、100年前は27歳だった計算になるので、「54年」なんてちょっと大袈裟じゃないかなと思ったが、統計上においては乳幼児死亡率の飛躍的な向上が理由とのことで、アフリカなどの未開発国を含めての世界的な話とのこと。
で、人間の生きる目的はいろいろあるのだろうが、つまるところ「健康で長生きする」それに付随して「豊かな生活スタイルを送る」ことなので「寿命」は興味のあるテーマであることは疑いない。
本書の296頁に人間の寿命を飛躍的に伸ばした主要なブレークスルーを3段階に区分して挙げてあった。
医学的、生理学的、衛生学的な観点からの選出で「AI」などは考慮していない。
<数百万の命を救ったイノベーション>
エイズ・カクテル療法、麻酔、血管形成術、抗マラリア薬、CPR(心肺蘇生法)、インシュリン、腎臓人工透析、経口補水療法、ペースメーカー、放射線医学、冷蔵、シートベルト
<数億の命を救ったイノベーション>
抗生物質、二又針(ワクチン接種用の注射針)、輸血、塩素消毒、低温殺菌
<数十億の命を救ったイノベーション>
化学肥料、トイレ/下水道、ワクチン
で、解説としてこうある。
「この殿堂を眺めて最も印象に残るのは民間企業で生まれたものがいかに少ないか、である。最初のブレークスルーそのものを見る限り営利企業による特許で守られた進歩としてなされたものはほとんどない。
ひとつ注目すべき例外はボルボのために設計された3点式シートベルトぐらいである。
このリストに並ぶ項目のほとんどは「学術研究」「進取の気性に富む医者」「奮闘するフィールドワーカー」の手になるものだった。
つまり、大企業やスタートアップ企業からは生まれていないので、私たちはつねに公共部門を味方につける必要がある。」
以上のとおりだが、「営利を目的とした出発点」からは「寿命を延ばすブレークスルー」に繋がらないという視点は興味深い。
で、「公共部門を味方につける」からつい連想したのがオーディオ製品だ。
「優秀な民生品」は政府肝いりの「軍事産業」から発展した例が多いが、
「オーディオ製品」を例にとると、英国のスピーカー「AXIOM80」やデジタル機器の「dCS」は潜水艦の「ソナー探知」用として開発されたし、アメリカでは第二次世界大戦前に、国策として大量の資金が「ベル研究所」に投与され、その製造の子会社だった「ウェスタン・エレクトリック」製の緻密な真空管の開発につながった。
真空管の世界ではいまだに「ウェスタン製」、そしてその流れをくむ「STC(ロンドンウェスタン)製」が幅を利かしておりオークション市場でもずっと高値が続いている。
なにしろ開発時にお金に糸目を付けないで政府の資金が投入されたのだから民間が敵うはずがない。まあ、強いていえば太刀打ちできるのは当時のオランダ(フィリップス)、ドイツ(ヴァルボ)あたりの真空管ぐらいかな。
ほかにも現代では「スーパーコンピューター」の開発にあたって国の威信をかけて開発資金が投入されているが、「富岳」はつい最近「計算速度」でアメリカ製に負けたそうだが、ここ2年間は無敵だったことも頷ける。民間資金だけではとてもこうはいかない。
で、これからも有望なブレークスルーが登場したときには、その背景として「政策」的な後押しがあるのか、ないのか、私たちは注視する必要がありそうですね。
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