上司:「そこのところは臨機応変にやって!」
私:「臨機応変に・・・?」
その昔、転職して営業職に就いたばかりの私が、お客様への対応について上司に質問をしたときに返ってきた言葉が、この「臨機応変にやって」でした。
そのときは内心、中身をもう少し噛み砕いて教えてほしいと思いましたが、転職したばかりの私は思っていること全てを言うこともできず、言葉を飲み込んだことを今でもはっきりと覚えています。
あれから、うん十年。今なら上司が言わんとしていたことが理解できます。
「臨機応変」、よく使われる言葉ですが、その意味は「その場その場の情勢や事態の変化に応じた適切な手段をとる」ことです。
今回、冒頭のかつての上司とのやりとりを思い出したのは、あるコラムを読んだことがきっかけです。そのコラムは仕事の進め方を説明していたのですが、そこには「状況に応じて臨機応変に対応していくことが、残業を減らすために役立ちます」と書かれていました。
たしかに、仕事をしていると状況は日々刻々と変化し、せっかく予定を立ててもそのとおりには進まず、臨機応変な対応が求められることの連続です。
そのため、このコラムに書いてあるとおりだとは思うのですが、現実には臨機応変に対応ができないから苦労するのだし、一言で「臨機応変に」と言ってしまうと、それですべてが片付けられてしまうのでは、と思ったのでした。
「臨機応変に」と言われれば、頷くことも多いし、なるほどと思うこともありますが、臨機応変な対応ができるのは、ある程度その事柄に精通している人です。まだそこに至っていない、基本問題を解くのにも時間がかかっているような人に対して、臨機応変を求めるのは、いきなり応用問題を解けと突きつけるようなものであり、それはちょっと無理でしょう、と思ってしまいます。
ですから、この言葉は新入社員や、まだその仕事に精通していない人に言うのは酷ですし、その局面では役に立たない言葉だと思います。
話は変わりますが、問題解決研修やコンサルティングの場で、職場のルールを作っていただくことがよくありますが、その時に頻繁にでてくる言葉の一つがこの臨機応変です。
これ以外にも、「○○について、状況対応する」、「○○を調整する」、「必要に応じて○○する」などの表現がよく使われます。問題を解決するための対策を練っているのにもかかわらず、文章の末尾があいまいな表現や精神論のような感じでしめくくられてしまうのです。
そういうときには、「状況対応の中身を明らかにしてください」、「必要に応じてとはどういう状態ですか?」と、新入社員にもわかるような表現に変更してくださいと伝えるのですが、これがなかなか難しいようです。
仕事のみならず、はじめから臨機応変な対応ができるくらいなら、誰も苦労はしないわけです。ですから、臨機応変という言葉を安易に使うことは、場合によって、(言葉は悪いですが)その場をごまかそうとしたり、逃げるためのテクニックのようにも感じられてしまいます。
自分は「臨機応変にやって」という言葉を頻繁に使っているという人は、相手がその仕事や事柄に精通しているかどうかをよく確認する必要がありそうです。
毎週のようにビジネス書の新刊本がたくさん出版されていますが、臨機応変の対応が難しいからこそビジネス書が売れているのかもしれません。
(人材育成社)