前回のブログにも書きましたが「これから批判・検討を加えて良い案としていくための、最初に出される案」がたたき台です。ビジネスにおけるたたき台とは、一番初めに出されるアイデアまたは計画ですから、スピード優先で内容はラフなものになります。
通常、第1回目の会議で提出されるたたき台には不備な点が多々あります。初期の段階では不明確な点が多く、そのすべてをカバーすることはまず無理だからです。しかし日本の、特に大企業では次のような光景をよく目にします。
A係長「では、第1回の企画会議を始めます。これが現時点でまとめた計画案です。」
B課長「どれどれ・・・ん?何これ、前提条件が2つしかないじゃない。しかも見積コストの幅があり過ぎるよ!」
A係長「はあ、すみません。おいC君、これ作ったの君だよね。ちょっと課長に説明して差し上げて。」
C君 「は、はい。えーと、まず前提Xですが先週顧客訪問した際、いろいろと聞き取りをして作りました。ただ、昨年度の実績を加味すると前提Yもあり得るわけでして・・・(心の声:なんだよ係長、これで良いって言ったじゃねーか!)」
A係長「見積コストがこんなになったのはなぜ?過去のデータ全部当たったの?」
C君 「いや、時間がなくて全部というわけには・・・」
B課長「おいおい、これじゃたたき台になってないじゃないか。しょうがないな、今日の会議はなかったことにして、仕切り直しは来週にしよう。」
A係長「課長、来週は大阪で展示会があるので時間が取れません。」
B課長「あ、そうだったな。じゃ、再来週ということで。日程は後で調整して決めるように。」
・・・と、ここで終われば良いのですが、次回の会議でも「見積が甘い」といった声が出てくること間違いなしです。こうして「たたき台」が完成する頃には、すでに何回もたたかれた後、という笑えない状態になります。その結果、タイミングを逸した頃に「立派な計画」が出来上がります。
たたき台はもちろん、その後に作られる計画も状況に応じて何度も変更する必要があります。計画は作ることが目的ではなく、運用することが目的だからです。
「すべての計画は変更のためのたたき台に過ぎない」これはイスラエル国防軍が好んで使ったスローガンだそうです。その成果は「ほぼすべての計画が戦闘中に放棄されたが、目標はすべて完全に、しかも想定より早く達成された。」という第2次中東戦争の報告に表れています※。
ビジネスにおいても、こんなスローガンを信奉する競合他社がいたら・・・ぞっとしますね。
※「超予測力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 」2018年、早川書房