企業という存在には実態というものがありません。2つの建物の中に、それぞれたくさんの人間が集まっていてなにやら動いているとします。どちらか一方が「企業」であり、もう一方が無関係な人々の集まりだとしても、両者を物理的に識別する手立てはありません。そこに存在しているたくさんの人々の意思が企業そのものです。まさに「企業は人なり」です。
ところが、企業を形作っている「人」は決して一枚岩ではありません。現場で働く社員と経営者はそれぞれ異なる立場だからです。最近そのことを強く意識させられたのは「日本品質」に対する信頼の崩壊です。この数年で起こった大企業、特に日本を代表する製造業で起こった様々な不正、不祥事がそれです。
エアバッグ、免震ゴム、くい打ち工事、燃費データ、製品強度といった単語を検索すれば出てくるのは不正、不祥事に関連した記事ばかりです。日本製=高品質というのはただの神話だったのでしょうか。
当社は製造業の研修を数多く手がけていますが、現場の人たちは品質について非常に強いこだわりを持っています。
ではなぜ不正、不祥事が起こるのでしょうか。
ずばり答えを言うならば「現場の品質の捉え方」と「経営者の品質の捉え方」の違いです。現場はあくまで安全、安心を担保できる品質を追求します。一方経営者は利益や効率を第一に考えた品質を望みます。
「いや、そんなことはない」という経営者もいますが、「では、貴社のXXという製品の品質基準書を読んだことがありますか?」と聞くと、ほとんどの場合「それは私の仕事ではない」という答えが返ってきます。大変失礼かもしれませんが、特に銀行出身の製造業の経営者の方々の一般的な答えです。
このように、品質は単に「現場の仕事」であるとしか考えない経営者のもとでは、現場の人間は戸惑うことが多くなります。「品質よりも効率を優先しろ」などとはっきりと口に出して言わなくても、「利益最優先」といった経営者の言葉が四六時中現場に響き渡っていれば、ある程度の「忖度」は起こりうるでしょう。
経営者は役員の任期中に多くの利益を上げれば、当人の「お手柄」となり退職金も十分に手に入ります。現場が追い求める品質など単なるコストに過ぎず、邪魔な存在だと考えるのはむしろ自然なことでしょう。
こうした経営者と現場の「品質対決」では圧倒的に現場が不利です。
悲観的な話ですが、これからも不正、不祥事はなくならないでしょう。
さて、研修担当者の皆さんにお願いがあります。皆さんだけは現場の味方になってあげてください。「任期が終われば去っていく人」ではなく「定年まで何十年も現場で頑張る人」のことを考えて仕事をしてください。
それが会社を守ることであり、皆さん自身を守ることでもあるからです。