学生時代、夏休みの間だけ塾の講師をやっていました。小学校の高学年の子供たちに算数を教えるのですが、相手はいわゆる落ちこぼれ寸前の子供たちでした。黙々と問題を解いていると思いきや、まったく意味不明の数字を書き連ねる子。私の前に座り込んで熱心に、しかし的外れな質問を繰り返す子。落書きをはじめる子。眠そうな子。
皆さんがこの塾の先生だとしたら、おそらくほとんどの方は「ギブアップ」となるのではないでしょうか。
実は、私はこうした子供たちを扱うのが得意でした。一人ひとりの個性(クセ)に合わせて根気よく付き合いながら少しずつ勉強に誘導していきます。
たとえば、落書きをする子には絵(マンガ)の描き方を教えながら「これは弟の太郎君、こっちはお姉さんの花子さんね。2人が学校に行くよ。花子さんが先に歩いて出て、後から太郎君が自転車で追いかけると、何分後に追いつくかな」と数字を少しずつ混ぜながら説明します。ほとんどの子はこれで「旅人算」ができるようになりました(夏休みいっぱいかかることもありましたけれど)。
しかし、唯一お手上げの子がいます。「わかんない」しか言わない子です。
マンガを描いて、ていねいに説明しても「わかんない」
じゃあ、太郎君と花子さんて、どんな子かな?と聞いても「わかんない」
どこがわかんないの?と聞いても、「わかんない」
今、なにがしたいの?「うーん・・・わかんない」
とにかく勉強が嫌いだし、少しでも勉強に関係することは一切聞きたくないのです。「わかんない」と言っていれば、この場から逃げ切れると思っていたのでしょう。
とはいえ、子供には知らないことを知りたいという本能(?)があるせいでしょうか、やがて「わかんない」に飽きて、ゆっくりとですが勉強に近づいてきます。
しかし、これが大人だと大変厄介です。私は講師として数多くの研修を担当してきましたが、「わかんない」受講者に何度か遭遇しました。
研修なんて時間の無駄だ。とにかくテキストも見たくないし、講師の話も聞きたくない、時間が過ぎるまで「わかんない」を連発してやり過ごそう、というわけです。
会社は学校ではありませんから、研修の時間も「業務時間」となります。「わかんない」は一種の怠業であり、怠業は労務提供の不完全履行であり、賃金カットの対象になります(あくまでも原則論です)。
講師としては、研修という業務を請け負っている立場上、そうした「わかんない」を見過ごすことはできません。事実を記録し、氏名を人事部に報告します。
塾の講師のときのように、広い心で対応できないのが残念です。