「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「急ぎで社員に対して研修を行いたい」
これは企業や自治体等で不祥事が起こってしまった際に、必ずといっていいくらいに発せられる言葉です。そして、実際にその後大慌てで研修を実施するケースも相当数に及びます。
私も不祥事が起きてしまった企業から再発防止のための研修の依頼をいただき、担当させていただいたことがあります。そのときの先方からの要望は、「とにかくできる限り早く、研修を実施したい」というものであり、実際に短期間のうちに幅広い社員を対象に研修が行われました。しかし、それは再発防止を目的に研修を行っているというよりも、研修を実施すること自体が目的となってしまっているように感じました。
果たして、このようなやり方で研修を行って不祥事の再発防止に役立つのでしょうか。
以前私がその研修を担当させていただいた際に強く感じたのは、何より受講した多くの社員がしらけたような雰囲気だったということです。それは、問題を起こした社員はごく一部であり、多くの社員は真面目に働いていたのにも関わらず、一律で研修を受講させられるものだったからです。
中小企業の経営者や研修の担当者と打ち合わせをしていると、「人材育成を行っても、なかなか成果が出ない。行う意味はあるのだろうか?」との疑問の声を聞くことがあります。その際には、私は「研修を1回行ったからといって、社員が劇的に変化するということはありえません。たった1回の研修で社員が大きく変わるような研修があったら、それはかなり怪しい研修です」とお答えしています。
不祥事が起こってしまった企業のトップも、当然1回の研修で社員が大きく変わることはないことはわかっていらっしゃるのです。しかし、それでも「まずは研修を」と考えるのは、不祥事に対して組織として迅速に対応したという外向きのメッセージでもあるのだとは思います。
しかし、不祥事が起こってしまったということは、そこには必ず何らかの原因や理由があるわけです。たとえば、社内の仕組みに問題があったり、風通しが悪い風土であったりということがあげられます。ここで言う風通しが悪い風土とは、組織内のコミュニケーションが取り辛い状態であり、実際に風通しの悪い組織では不祥事が起きやすいという実証的な研究もあるのです。たとえば部下のミスや仕事上の問題は可能な限り早く上司に伝えられなければなりません。しかし叱責や責任追及が優先されてしまうような風通しが悪い組織文化では情報が伝わりにくく、問題が隠蔽されやすい傾向にあるとも言われています。
不祥事が起こってしまう背景にはそれだけの問題があるということであり、それをきちんと踏まえた上で再発防止のための対策を打つ必要があるということなのです。
不祥事が起きてしまうのは、それを起こしえる風土にしてしまったことがそもそもの原因です。本気で風土を変えていこうとするのであれば、同じくらいの長い時間をかけてじっくりと取り組むことが必要です。
日々、研修を提供している立場の者としては、「不祥事の再発防止対策には、アリバイのように研修を行っても真の問題解決にはなりません。腰を据えてしっかりと取り組むことが必要です」と、声を大にしてお伝えしたいと思っています。
最新の画像[もっと見る]
- 第1,235話 サービスを提供する側の神髄とは 2日前
- 第1,228話 部下に自分の言葉で話してもらうことから始める 2ヶ月前
- 第1,227話 予定人数を採用することはゴールではなくスタートである 2ヶ月前
- 第1,225話 何にでも「さん」を付ける人の意識 3ヶ月前
- 第1,224話 役職定年廃止による影響は如何に 3ヶ月前
- 第1,222話 ライバルの存在は必要か否か 3ヶ月前
- 第1,221話 ジェンダーの平等が進む将来はいつ来るのか 4ヶ月前
- 第1,220話 アイディアが思い浮かぶタイミングとは 4ヶ月前
- 第1,216話 自分が好きに生きられるように努力することとは 5ヶ月前
- 第1,214話 孤立感をもたせないためには 5ヶ月前