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第1,085話 モチベーションと利他の精神

2021年12月26日 | 研修

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

モチベーションとは、人を目標に向かって行動させる何らかの動機です。簡単に言ってしまえば「やる気のもとは何か」ということです。一番わかりやすいのは金銭的報酬ではないでしょうか。

たとえばアルバイトを雇ってレンガを積む作業をさせたとします。積む数に関わらず一定の報酬を払う場合と、積む数の多さに比例して報酬を払う場合とを比べれば、明らかに後者の方がやる気になり、成果も上がります。

もちろん、金銭以外の要因もあります。レンガ積みの目的が信者が集う「教会」を建てることだとすれば、信者にとっての報酬は金銭以外の要因(信仰心)にあることは確かでしょう。

また、金銭でも信仰心でもない要因もあります。「利他」の心がその一例です。「利他」とは、他人の利益となるようような行為をすること、自分のことよりも他人の幸福を願うことです。事実、私たちは宗教や金銭に結びつかなくても、慈善活動やボランティアを買って出ることがあります。

その理由は、人は生まれながら利他の心(あるいは性質)を持っているからです。数学を土台にしているゲーム理論によれば、人類が生き残ってきたのは利他的な行動によるものだと考えられています。詳細は省きますが、ゲーム理論では有名な「アクセルロッドの実験(反復囚人のジレンマゲーム)」があります。複数の生物群が競合するシミュレーション・ゲームで最終的に生き残ったのは「しっぺ返し (TIT-FOR-TAT)戦略」を実行する群だったというのです。

「しっぺ返し戦略」というのはまず最初に相手を信頼し、利他的に行動する。それに対して相手が利他的に反応してきたら同じように利他的に、逆に敵対的に反応してきたら敵対的に行動するというものです。つまり相手の取った行動をそのまま相手にし返すのです。それを果てしなく繰り返すことで、他の戦略を取る集団よりも少しずつ優位になって行き、最終的には生き残るというわけです※。

さて、企業研修では従業員のモチベーションをいかにして維持するかを様々な海外の理論(マズロー、マクレガー、ハーズバーグ、マクレランド、ブルームなど)で説明しています。それらすべては仮説であり、ゲーム理論のような数学的な合理性がベースになっているものではありません。

そのため、海外の「モチベーション理論」は心理面あるいは現象面だけのアプローチに終わっているように見えてしまいます(ただし、こうした「モチベーション理論」たちは十分に説得力があり、実際に役に立っています。誤解なさらないようにお願いします)。

私はゲーム理論が図らずも明かしたように、モチベーションの根本には人が生来持っている利他の精神があると考えています。

その考えに沿うならば、最も注目すべきは「論語と算盤」(渋沢栄一)だと思います。渋沢は人間の心の中には利他と自利が一体となって存在していると説いています。人はそのように生まれついているのだからそのことを忘れてはいけないと言っているのです。

無茶を承知で言えば「論語と算盤」が説く「利他と自利」の足元には数学的な理論が見えない形で存在しているように思えてなりません。その意味で、この本は数多(あまた)の海外理論を凌駕する「モチベーション理論」の最高傑作ではないでしょうか。

久しぶりに「論語と算盤」を読み返してそう思いました。

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※ この理論については批判もありますが、概ね受け入れられています。参考文献「社会科学者のための進化ゲーム理論」2008年、大浦宏邦著、勁草書房


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