「問い合わせをしいても返事が1か月間くらい来ないので、困っています」
これは大手企業の下請けをしている企業の、ある担当者から聞いた言葉です。
具体的に言うと、業務の途中で確認しなければならない事項が発生した際に、発注側の企業に問い合わせをしても返事がなかなか来ないために、そこで業務が止まってしまうのだそうです。
長いときには1か月も返事が来ないため、その後の対応がとても大変になるそうです。なぜならば、そこで1か月間ものブランクが発生したとしても、納期自体は変わらないからなのです。
そのため、納期に間に合わせるためには、元々の人員では対応できないために他部署に応援を要請したり、外注に出したりして何とか納期に間に合わせているとのことでした。
働き方改革が叫ばれて久しいですが、このような発注側から下請け側に対する仕事の対応が改善されない限り、本当の意味での働き方改革の実現は簡単には進まないと感じます。
今を遡ること、2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章が策定されています。その中の具体的な取り組みとして、「取引先への計画的な発注や納期の設定」が挙げられていました。しかし、それから10年以上が経過しているのにもかかわらず、実態は今もほとんど変わっていないのです。
発注側のこのような対応が続くと、いくら下請け側が納期に向けてきちんと段取りをしていたとしても、結局は短期間で仕事をすることにならざるをえません。一時的ではあっても極端な長時間労働になったり、外部や他部署に応援要請をせざるをえないことによって利益が減少してしまったりします。
さらに、1か月もの間、元請け企業からの返事が今日くるのか明日来るのかがわからないためにやることがなくなり、他の仕事を入れることもできないため、暇になってしまうわけです。これでは仕事の生産性は確実に下がってしまいますから、国が掲げている働き方改革の実現には程遠い状態です。
では、一体なぜこうしたことが繰り返されているのでしょうか。言うまでもありませんが、これは発注側と下請け側の力関係によります。発注側からすると、下請け企業はたくさんあるのだから、こちらの要求を受け入れられないのであれば、他に頼む企業はいくらでもあるという強気の姿勢のあらわれなのです。こうなるとどうしても立場の弱い下請け側は従わざるを得なくなりますから、Win-Winの関係には程遠い状況です。
もちろん、下請け側の企業もこのような状況にただ手をこまねいているわけではありません。冒頭の企業でも、過去に何度も発注側の企業に対して現状を説明し、発注時に納期にかかわる配慮を組織的に求めています。しかし、残念ながら状況は変わっていないのです。
そしてこれは業界にかかわらず、どこもおそらくは似たような状況で、一向に改善が進んでいないのが現状ではないでしょうか。こうなると、これはもはや一企業の対応でどうにかできる問題ではなく、構造的な問題と言わざるをえません。
今後、下請け側の企業も生産性の向上を実現して、Win-Winの関係を作ろうとするのであれば、発注側から下請け企業への仕事の発注と納期について法制化することも必要でしょう。そこまでしないと、いつまでたっても状況の改善は進まないのではないかと、様々な企業の声を聴く中で痛切に感じています。
生産性を向上し、長時間労働を抑制してWin-Winの関係を作るためにも、改善を急ぎましょうと声を上げたいです。