「Aさんが退職してしまってから、すっかり職場に元気がなくなってしまいました。改めて彼女の存在感を感じている今日この頃です」
これはある企業に勤めていたAさんの退職後の様子を、同じ職場にいた後輩のBさんが語ってくれた言葉です。Aさんは10年以上のキャリアを持つ女性でしたが、家庭の事情で半年前に退職をしていたのでした。
Bさんは続けてAさんについて、次のように話してくれました。
「Aさんはまだ管理監督職ではなかったものの、Aさんがいるだけで職場がまとまっていたような気がします。口数は決して多い方ではなかったけれど、結論がなかなか出ない会議の場面などで、全体の雰囲気が少しぎくしゃくしてしまったような際に、Aさんが状況を見ながら発する言葉によって一気に場が和み、結論が出たのです。
Aさんは皆の目線よりも、いつも少しだけ俯瞰しているような見方をしていたと思います。静かな存在感のようなものがあった人でした」
この話を伺って思ったのは、リーダーシップのスタイルの理論です。リーダーシップのスタイルは「目標を達成する機能」(Performance function P機能)と、「集団を維持する機能」(Maintenance function: M機能)の2つに分類されます。そして、それぞれに必要とされる能力は異なります。
P機能は目標設定や計画立案、指示命令や、ときには叱咤などにより、組織の成績や生産性を高める能力を指します。
一方のM機能は、集団の人間関係を良好に保ち、チームワークを強化・維持する能力を指します。
これで言うと、上記のAさんはまさにM機能を発揮していたことになります。リーダーシップと聞くと、多くの人はP機能の方をイメージされるのではないでしょうか。そのため、「私には指導力や統率力がないからリーダーには向かない」というような言い方をしたりする方が多いのだと思います。
しかし、組織として考えた場合にはリーダーにはP機能だけでなく、M機能も当然のごとく必要なのです。このことは冒頭のBさんの言葉からも伺えると思います。
もちろん、リーダーとなる人には様々なタイプがありますし、それぞれ得意とする分野も違うでしょう。自分は計画立案が得意だと言う人もいるでしょうし、逆にチームワークの維持・強化の方に長けていると言う人もいるでしょう。
しかし、たとえば「職場での仕事の生産性の向上」を考えてみると、そのための計画立案に加え、チームワークをさらに向上させていくことも欠かせないはずです。
つまり、リーダーにはP機能、M機能どちらかだけではなく、両方をあわせて持つことが望まれるわけです。
みなさんが今後リーダー像を考える際には、ぜひ両方の機能について意識していただけると幸いです。