メタ認知(Metacognition)とは自分の行動や考え方を客観的に把握することです。メタ認知能力があれば、自分の行動を冷静に見つめることができます。その結果、誤った判断を避けることが可能になります。
ある日あなたがドライブに出かけたとします。空は快晴で、まっすぐに伸びた高速道路は空いており、気分爽快で車を走らせています。そんなときは、ついスピードを上げてしまいたくなることでしょう。その一方で、速度を取り締まる機械が設置されていることも、覆面パトカーがいるかもしれないということも、常に頭の中にあるはずです。非常に単純な例ですが、これもメタ認知です。
パワハラ上司のほとんどは、このメタ認知能力が欠けています。職場で大声を出して部下を叱責したり、人を傷つけるような暴言を吐いたり、自分が「違反」をしていることに気づかないのです。
職場にはパワハラを示すメーターもありませんし、取り締まる警官もいません。客観的に「違反」であることを知らせる手段は一切ありません。そんな状況で本人に自覚がなければ、いくらでも違反し放題ということになります。
厚生労働省は職場のパワーハラスメント対策として、企業に防止措置を義務づける関連法案を来年の通常国会提出する方針です。これは一歩前進ですが「違反をさせないよう会社がしっかりと対策を立てなさい」というものであり、何を以て違反とするのか、どのようにして違反を取り締まるのか、これから解決すべき問題はたくさん残っています。
現時点で最も有効な対策は、やはり研修です。職場から離れることで、メタ認知をしやすい状況に身を置くことができます。ケーススタディを通じてパワハラの実態を客観的に見ることで、自分の考え方と照らし合わせてみます。さらに、グループ・ディスカッションを行って他者の発言を聴き、自分がパワハラという行為に対して相対的にどういう「立ち位置」なのかを確認します。
もちろん、これだけで社内のパワハラが一掃できるわけではありません。研修を受けても「この程度はパワハラとは言えない」という人もいるでしょう。
しかし、自分の普段の言動が他者からはグレーであると判断されるのだ、ということがわかるだけでもメタ認知能力の向上につながります。パワハラ研修は会社としての「パワハラ抑止力」の向上に必ずつながります。
まだパワハラ研修を実施していない企業の経営者の皆さんに申し上げます。
あなたの会社は「速度規制のない高速道路で、無謀な運転をしているのに自覚のないドライバーがいる状態」かもしれません。
事故が起こってからでは遅いですよ。