「上司は部下を呼びつけちゃいけない。部下に用があるときには、上司の方が部下のそばに行って、今、声をかけてよいかを確認してから声をかけなければならない。もし、部下が仕事に集中しているようであれば、声をかけるのは止めにして、少し時間を置く必要があるそうです」
これは先日お会いした、ある企業の人材育成担当者から伺った話です。以前、その企業で「ハラスメント防止」研修を行った際に、外部講師が語った言葉なのだそうです。
その育成担当者は続けて「うちの管理者はいつも部下を呼んで指導していますよ。この行為は、上司としてやっていけない行為だったのですね」と話しました。
さて、皆さんはこの話を聞いてどのように感じますか。
上司が部下を呼んではいけない?
私自身はこの話を聞いて「では、部下が10人も20人もいる上司だったら、どうするのだろう?仕事の指示をしたり、部下から報告を聞いたりしなければならないとき、いちいち上司が部下の席まで行くのだろうか?」
そして、「部下が集中して仕事をしていたら、声をかけるのを止めなければならない。さらに、その都度出直さなければならないのか?」
「そんなことをしていたら、逆に上司の仕事はどうなるのだろう?」など、次々に疑問がわいてきてしまいました。
上司の仕事は職場の目標達成のために、経営資源(人、モノ、カネ・・・)を効果的に活用することのはずです。そのためには、部下にも最大限の力を発揮してもらう。さらに、そのためにコミュニケーションを通して行動変容を起こさせることも必要なはずです。
現在、いわゆる「売り手市場」と言われるようになって久しいです。企業は新人に限らず中途であってもなかなか採用するのが難しい時代です。
したがって、ほとんどの企業はせっかく採用した人は辞めさせてはならないと考えています。無論その考えには何ら異論はありません。
せっかく採用した人に簡単に辞められてしまっては、企業にとって大きな損失であり、そうならないように様々な対策を打つことはもちろん必要です。
その一つとして、直属の上司のみならず組織として新人を丁寧に育成することには、私も大賛成です。
また、近年ではハラスメントに関する問題がますます顕在化してきています。実際、パワーハラスメントにかかる労災申請の件数は右肩上がりの状況が続いています。
パワーハラスメントは、被害者だけでなく、周囲も組織も、最終的には加害者にも大きなリスクがあるわけですから、決して看過できない問題です。
しかし、いくら「採用した人を辞めさせてはならない」、「パワーハラスメントはいけない」からといって、冒頭の話のように「上司が部下を自分の席に呼んで仕事の指示をしたり、報告させたり、部下が集中しているときには指導したりしてはいけない」ということになったら、仕事はどうなるのでしょうか。円滑な進行に支障が出てしまうだろうことは容易に想像できます。また、部下自身は成長の機会を失います。やがては組織全体にもマイナスの影響が出てきます。
人を辞めさせないこと、パワハラをしてはいけないことと、上司が部下に対してまるでお客様扱いのように対応することとは、まったく別の話です。弊社では上司は必要なときには毅然として部下指導を行うべきであると考えています。