「10月はたそがれの国」はレイ・ブラッドベリの短編集です。日本にはブラッドベリ・ファンも多いので、この本を読んだことがある方もいらっしゃると思います。私も、「とうに50半ばを過ぎて」も毎年10月になるとこの本のことを思い出します。
なぜ思い出すのかと言えば、その内容よりも、この本のタイトルが持っている抒情的な語感が素晴らしいからです。原題は「The October Country」なのですが、日本語のタイトルが秀逸です。
「たそがれ」は江戸時代までは暗くなって人の見分けがつかず、「誰(た)そ彼(かれ)は」と問う夕暮れ時を指していたそうです。人生の黄昏時というと寂しい感じがするのは、人生の夕暮れ時だからでしょう。
一方、10月は収穫の月でもあります。
研修講師の仕事をしていると、過去のさまざまな経験が役に立つことが非常に多くなります。
研修では、(上手く行ったことも失敗したことも)実際のエピソードにからめて知識を伝えるようにしています。すると、単なる解説では分かりにくかったことも腑に落ちるようです。
経験と知識は時間とともに増加していきます。それは貯蔵庫に蓄積された穀物のようなものだと思います。それを研修の場で使ってこそ、「人生の10月」とも言える50~60代を実り豊かにすることができるのでは、と思っています。
もっとも最近は人の名前が思い出せず、「えーと・・・誰(た)そ彼(かれ)は?」とつぶやくことも多くなりましたが。
(人材育成社)