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暴走

 生徒を送り終えて自宅に戻り、ぼんやりTVを見ていたら、携帯のメールに着信があった。開いてみると、「すみませんでんわにしてください」と妻の携帯からだった。妻は昼過ぎから学生時代の友人たちと会うために出かけていたのだが、帰宅していないなら駅まで迎えに行こうかと、少し前にメールしていたのに対する返信だった。どうして電話しなきゃいけないのかな、と少々不審に思いながら電話してみたら、聞いたことのない女性の声で、
「もしもし、私今日奥さんと一緒していた者ですが、今どちらにみえますか?」
「自宅ですけど」
「あの・・、奥さんが駅で動けなくなって・・。タクシーに乗せようにも行き先を言えるかどうかわからない状態なので・・、どうしましょう?」
「酔っ払ってるんですか?」
「はい、すごく」
「えええ!!」と叫びながらも、そこまで飲んでどうする、馬鹿じゃないか!と突っ込みを入れたくなったが、介抱していてくれる人にそんなことは言えないので、
「じゃあ、迎えに行きます、どこですか?」
「大曽根です」と名古屋の駅名を教えてくれた。「プラットホームから出られそうもないのでお願いします」
「こちらこそ、すみません。2、30分はかかると思いますが、お願いします」
「はい、待ってます」
すぐに車に乗ったのが11時20分頃、本当にそんな短時間で着ける自信はなかったが、久しぶりにかなりアクセルを踏み込みながら、何とか12時前には駅に着いた。
 路上に駐車しておいて、駅員に事情を話して、ホームまで走っていったが、どこにも姿が見当たらない。おかしいなあと思いながら、携帯をかけてみた。
「駅に着いたんですけど、どこですか?」
「ホームですよ」
「・・・、ひょっとしたら、JRの方ですか」
「そうです」
大曽根には私鉄の駅とJRの駅があり、私は何も考えずに私鉄の駅の中を探していたのだ。
「わあ、間違えました。すぐにJRの方に行きます」
最近走るのが遅くなったと妻に嘆いたばかりなのに、それからはまさに風を切るようにして階段を1段飛ばしで上りきり、脱兎のごとく50m近くあるホームを走って行って、ベンチに前かがみになってまるで動かない妻と、その横で心配そうに付き添ってくれている友人さんの所にたどり着いた。さすがにぜーぜー息を切らしていたが、
「ありがとうございました」と友人さんにお礼を言うと、
「いえ。それじゃあ私は失礼します」と立ち去ろうとするので、
「あなたはどうやって帰られるのですか?」とたずねたら、
「タクシーで」と軽く会釈をしながら歩いていってしまった。
大丈夫かなと思いもしたが、もっと大変なことが私の目の前に控えている。どうやってこの酔っ払いを車まで連れて行くか・・。
「おい」と声をかけても反応しない。
「おい、大丈夫か」と言って肩をゆすったら、
「大丈夫じゃありません、気持ちが悪いです」などとしどろもどろに答える。
「歩けるか」と聞いても「歩けません、気持ち悪いです」と答えるばかりで、どうにも埒が明かない。こうなったら、ままよ、とばかりにベルトをつかんで抱き起こしたら、ぐにゃぐにゃして全く正体がない。
「バカヤロウ!歩けなくてもいいから、足だけ前に出せ」などと訳の分からぬことを叫んだら、それでもよろよろ足を出し始めたので、何とか二人三脚のようにしてホームを出ることができた。エスカレーターにもうまく乗ることができたので、階段から転倒などという醜態をさらす心配もなかった。だが、すれ違う乗客たちがくすくす笑っていくのにはさすがに閉口した。まったくもって恥ずかしかったが、泥酔した妻を捨てていくわけにも行かない。全身汗びっしょりになりながらも必死の思いで車までたどり着いたのが、12時15分頃。ビリー隊長とのエクササイズ以上のエネルギーは消費したようだ・・。
 車の後部座席に倒れこんだ妻は、「寒いよ、気持ち悪いよ」とぶつぶつ言っていたが、途中から何も言わなくなった。さすがに疲れた私は、ゆっくりと帰り道を走って、家に着いたのが1時少し前だった。家に運ぶのにもすったもんだしながらも、何とか布団の中に押し込むことができた。
 妻は「すみません」などとうわ言のように言っていた。いくらSMAPのコンサートがないからといっても、これはちょっと飲みすぎだよなあ・・、まったく。
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