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小さな恋?

 「そんなに心配するなって。ちょっと体調が悪いくらいだって・・」
授業を終え、バスを運転していたら、そんな声が聞こえてきた。声の主はS君、元気な中3男子だ。相手は誰だかよく分からないが、その後も「元気出せよ」と励ます声が聞こえてくる。
 「どうした?S、誰に言ってるんだ?」
そんな声が聞こえたら黙っちゃいられない。私の問いかけに
 「いや、何でもないです」 
 「何でもなくはないだろう。気になるよ、誰が元気ないんだ?」
 「Kです」
 「Kか。そういや元気なかったかな?」
 「違います、僕じゃないです」
すぐにK君が反論した。
 「じゃあ、誰なんだ?」
 「Yです」
K君がきっぱりと言った
 「Y?どうしてYが元気ないんだ?元気だったじゃないか」
 「それは・・」
と、S君がさも曰くありげにお茶を濁す。どうやら彼の術中にはまったらしい。
 「そうです。僕です」
Y君が屈託なく後を継いだ。「僕を励ましてくれたんです」
 「何で?」
 「それは・・」さすがにY君も言い澱んだ。
 「Mが休んだからです」
ここからが本番だとばかりにS君が割って入ってきた。
 「Mさんは熱が出たらしいぞ、電話があった」
 「俺の言ったとおりじゃん、やっぱり」
とS君がY君に言う。
 「どうしてYがMのことを心配するんだ?」
 「YはMのことが好きだからです」
 「Yが?Mを?・・・本当か、Y?」
バスの中がざわついた。他の生徒も何人か乗っているのにこんなこと話してもいいのか?とも思ったが、好奇心は抑えられない。
 「そうみたいです」
Y君があっけらかんと答えた。みんなに知られても平気なのかな?よく分からんなあ・・。
 「そうみたいって、他人事みたいに・・。いつから好きなんだ?」
 「去年辺りからです」
 「去年て言ったって、今年はまだ始まったばっかりだし、最近好きになったってことか?」
 「そうみたいです」
 「で、コクったのか?」
まさに親爺の図々しさで思わず聞いてしまった。
 「してません」
 「そうか。Mはお前の気持ちを知らないのか?」
 「知らないみたいですね」
 「ふ~~ん、でも今日でみんなに分かっちゃったから、Mにもすぐに伝わるぞ。いいのか?」
 「仕方ないっすねえ」

 このY君はいつもこんな話し方をする。いい子なんだが、自分があるのかないのか、つかみ所のない子だ。それと同じように勉強に対してもやる気があるのか、ないのか、私にはよく分からない。たぶん本人も分かっていないだろう。そんなY君が恋をした。不思議な恋心だという気もしなくはないが、これだけみんなに知られてしまったら「秘めた恋」なんていう奥ゆかしさはまったくなくなってしまう。だけど今どきの中学生にはこんな軽い感じのほうが、気楽なのかもしれない。もしうまくいかなくても笑ってごまかせる、そんな予防線をはっているようにも思える・・。
 だが、結果はどうなるにせよ、心がときめくっていうのはいいことだ、羨ましい。うまくいくといいけどな・・。でしゃばって応援したりはしないけど・・。

 でも、君らは受験生だぞ、もうすぐ入試だぞ。浮かれてばかりいないで勉強しろよ!!
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